TRENDIA CLASSIC

鷺と鴛鴦

芥川龍之介

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二三年前の夏である。僕は銀座を歩いてゐるうちに二人の女を発見した。それも唯の女ではない。はつと思ふほど後ろ姿の好い二人の女を発見したのである。

一人は鷺のやうにすらりとしてゐる。もう一人は――この説明はちよつと面倒である。古来姿の好いと云ふのは揚肥よりも趙痩を指したものらしい。が、もう一人は肥つてゐる。中肉以上に肥つてゐる。けれども体の吊り合ひは少しもその為に損はれてゐない。殊に腰を振るやうに悠々と足を運ぶ容子は鴛鴦のやうに立派である。対の縞あかしか何かの着物にやはり対の絽の帯をしめ、当時流行の網をかけた対のパラソルをした所を見ると、或は姉さんに妹かも知れない。僕は丁度この二人をモデル台の上へ立たせたやうに、あらゆる面と線とを鑑賞した。由来夏の女の姿は着てゐるものの薄い為に、――そんなことは三十年前から何度も婦人雑誌に書かれてゐる。

僕はなほ念の為にこの二人を通り越しながら、ちらりと顔を物色した。確かにこの二人は姉妹である。のみならずどちらも同じやうにスペイド形の髪に結つた二十前後の美人である。唯鴛鴦は鷺よりも幾分か器量は悪いかも知れない。僕はそれぎりこの二人を忘れ、ぶらぶら往来を歩いて行つた。往来は前にも云つた通り、夏の日の照りつけた銀座である。僕の彼等を忘れたのは必ずしも僕に内在する抒情詩的素質の足りない為ではない。寧ろハンケチに汗をふいたり、夏帽子を扇の代りにしたり、爍金の暑と闘ふ為に心力を費してゐたからである。

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