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TORENDIA

兄と弟

本文約870字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

小田嶽夫の「魯迅伝」を読み、魯迅と周作人の兄弟に生じた悲劇の起源や、幼少期の対照的な経験が後の思想と境遇へ及ぼした影響を綴る。また、中華民国の成立過程における孫文と袁世凱の相克を通じ、軍閥の巨頭を指導者に据えるという選択がもたらした政治的な過誤と悲劇についても論じる。本書は、歴史の波の中で変転する個人の運命と、国家の行く末を分けた決定的な歴史的局面を、著者独自の視点で考察する評論を収める。

宮本百合子

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魯迅伝から

小田嶽夫氏の「魯迅伝」を少しずつ読んでいる。いろいろと面白い。兄である魯迅と弟である周作人との間にある悲劇は、決して一朝一夕のものではないことを感じた。

魯迅は十三の年、可愛がってくれていた祖父が獄舎につながれるようなことになってから極度に落魄して、弟作人と一緒に母方の伯父の家にあずけられた。魯迅は「そこの家の虐遇に堪えかねて間もなく作人をそこに残して自分だけ杭州の生家へ帰った」そして、病父のためにえらい辛酸を経験した。

作人はその間に、魯迅と一緒にあずけられた家から祖父の妾の家へ移って、勉学のかたわら獄舎の祖父の面会に行ったり、「親戚の少女と淡い、だが終生忘られない初恋を楽しんだりしていた。」

魯迅と作人との少年時代の思い出は、このように異った二つの色調をもっている。そのちがいは、後年の社会に対する態度にも及んでいることが肯ける。二つの性格が、この二人の作家にそれだけ違う境遇をもたらしたのだった。このちがいは中国で歴史の波が大きく動くにつれてこの二人の生涯を変化させた。遂にこの兄と弟とを中国の歴史と世界の文学史のなかで、決して同一の席に据えて語ることのなくなったまでに。

袁世凱

一九一二年時代の孫文と袁世凱のいきさつについて語られているところも非常に興味ふかい。その時代の俤がよくわかる。ゴーリキイが書いている思い出の中に、ロシアに博覧会があったとき袁世凱が来て、いかにも支那大官らしい歩きつきで場内を見物してまわったときの情景がいきいきと描かれている。その時袁世凱がしきりにそこに陳列されていた一つの宝石をほめ、そのほめかたは、その宝石を進呈しようと云わせるまでつづくようだったということも。軍閥の巨頭袁を、立憲共和の新しい中華民国の大総統に推さざるを得なかったことが、最大の過誤であったという意味のことを孫文が述べているそうだ。中国だけにある悲劇だろうか。日本の一九四五年八月十五日以後に、東久邇の内閣があった、あり得たということは、日本歴史の上でだけの問題ではない。世界の民主主義発達史のなかの特異な一頁である。

完

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