革トランク
本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
工学校を卒業した斉藤平太は、実家で設計請負の仕事を始める。しかし、廊下や梯子のない建物を完成させてしまった平太は、東京へ逃れ日雇いとして働く。その後、建築監督として働き始めた平太は、母の病を知り故郷へ帰ることを決意する。立身出世を装い二十円の大きな革トランクを買い、中に設計図を詰め込んで帰郷した平太は、地元の人々にトランクを珍しがられながらも、無事に故郷の村へと戻る。
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斉藤平太は、その春、楢岡の町に出て、中学校と農学校、工学校の入学試験を受けました。三つとも駄目だと思ってゐましたら、どうしたわけか、まぐれあたりのやうに工学校だけ及第しました。一年と二年とはどうやら無事で、算盤の下手な担任教師が斉藤平大の通信簿の点数の勘定を間違った為に首尾よく卒業いたしました。
(こんなことは実にまれです。)
卒業するとすぐ家へ戻されました。家は農業でお父さんは村長でしたが平太はお父さんの賛成によって、家の門の処に建築図案設計工事請負といふ看板をかけました。
すぐに二つの仕事が来ました。一つは村の消防小屋と相談所とを兼ねた二階建、も一つは村の分教場です。
(こんなことは実に稀れです。)
斉藤平太は四日かかって両方の設計図を引いてしまひました。
それからあちこちの村の大工たちをたのんでいよいよ仕事にかゝりました。
斉藤平太は茶いろの乗馬ズボンを穿き赤ネクタイを首に結んであっちへ行ったりこっちへ来たり忙しく両方を監督しました。
工作小屋のまん中にあの設計図が懸けてあります。
ところがどうもをかしいことはどう云ふわけか平太が行くとどの大工さんも変な顔をして下ばかり向いて働いてなるべく物を言はないやうにしたのです。
大工さんたちはみんな平太を好きでしたし賃銭だってたくさん払ってゐましたのにどうした訳かをかしな顔をするのです。
(こんなことは実に稀れです。)
平太が分教場の方へ行って大工さんたちの働きぶりを見て居りますと大工さんたちはくるくる廻ったり立ったり屈んだりして働くのは大へん愉快さうでしたがどう云ふ訳か横に歩くのがいやさうでした。
(こんなことは実に稀です。)
平太が消防小屋の方へ行って大工さんたちの働くのを見てゐますと大工さんたちはくるくる廻ったり立ったり屈んだり横に歩いたりするのは大へん愉快さうでしたがどう云ふ訳か上下に交通するのがいやさうでした。
(こんなことは実に稀です。)
だんだん工事が進みました。
斉藤平太は人数を巧く組み合せて両方の終る日が丁度同じになるやうにやって置きましたから両方丁度同じ日にそれが終りました。
(こんなことは実に稀れです。)