鎮魂歌
本文約28,600字 ・ 読了時間 約58分
あらすじ(AIが作成しました)
終わりのない不眠と揺らめく空間に苦しむ「僕」は、原爆の惨禍で奪われた命の重みを背負いながら、焼け跡の街を彷徨う。かつて死者たちが歩いた路を辿り、今を生きる人々や死者の面影を重ね合わせるなかで、死者の嘆きを糧に自らを生かそうとする。生と死の深みを見つめる「僕」は、残酷な現実と悲しみに耐えながら、平和な明日への願いを込めた祈りを捧げ、絶え間なく流れる言葉とともに生の深淵を歩み続ける。
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美しい言葉や念想が殆ど絶え間なく流れてゆく。深い空の雲のきれ目から湧いて出てこちらに飛込んでゆく。僕はもう何年間眠らなかつたのかしら。僕の眼は突張つて僕の唇は乾いてゐる。息をするのもひだるいやうな、このふらふらの空間は、ここもたしかに宇宙のなかなのだらうか。かすかに僕のなかには宇宙に存在するものなら大概ありさうな気がしてくる。だから僕が何年間も眠らないでゐることも宇宙に存在するかすかな出来事のやうな気がする。僕は人間といふものをどのやうに考へてゐるのかそんなことをあんまり考へてゐるうちに僕はたうとう眠れなくなつたやうだ。僕の眼は突張つて僕の唇は乾いてゐる、息をするのもひだるいやうな、このふらふらの空間は……。
僕は気をはつきりと持ちたい。僕は僕をはつきりとたしかめたい。僕の胃袋に一粒の米粒もなかつたとき、僕の胃袋は透きとほつて、青葉の坂路を歩くひよろひよろの僕が見えてゐた。あのとき僕はあれを人間だとおもつた。自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ、僕は自分に繰返し繰返し云ひきかせた。それは僕の息づかひや涙と同じやうになつてゐた。僕の眼の奥に涙が溜つたとき焼跡は優しくふるへて霧に覆はれた。僕は霧の彼方の空にお前を見たとおもつた。僕は歩いた。僕の足は僕を支へた。人間の足。驚くべきは人間の足なのだ。廃墟にむかつて、ぞろぞろと人間の足は歩いた。その足は人間を支へて、人間はたえず何かを持運んだ。少しづつ、少しづつ人間は人間の家を建てて行つた。