TORENDIA
火の子供
原民喜
TORENDIA
火の子供
本文約10,800字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
原爆の惨禍を生き延びた主人公は、戦後の神田の街で、火傷の跡が残る顔を持つ女性や、悲哀を漂わせる人々の姿に、消えることのない過去の記憶を重ね合わせる。広島での崩壊の夜に迷い子を抱いた男の姿が脳裏を離れず、現在の空虚な日常の中にも死の影と静かな絶望を感じ続ける。本書は、深い心の傷を抱えながらも、生き残った者として街を彷徨い、滅びゆく世界と新たな生の狭間で揺れ動く内面を綴る。
🎧 まだ音声版はありません
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
1 / 15
〈一九四九年 神田〉
僕は通りがかりに映画館の前の行列を眺めてゐた。水色の清楚なオーバーを着たお嬢さんの後姿が何気なく僕の眼にとまつた。時間を待つてゐる人間の姿といふものは、どうしても侘しいものが附纏ふやうだが、そのお嬢さんの肩のあたりにも何か孤独の光線がふるへてゐた。たつた一人で、これから始る映画を見たところで、どれだけ心があたたまるといふのだらう。幸福さうな、しかし気の毒げな、お嬢さんよ。僕は何気なく心のなかで、そんなことを呟いてゐた。と、その時どうしたはずみか、お嬢さんはこちらを振向いた。その顔は一めん火傷の跡で灰色なのだ。僕は見てしまつたのだ。何故に、そのお嬢さんはたつた一人で映画のなかに夢を求めなければならないかといふ理由を……。
毎朝、僕はこの部屋で目が覚めるとたん、背筋に真青なものがつつ走る。僕はほんたうに、ここに存在してゐるのだらうか、僕は宙に漾つてゐて、何処かはて知らぬところへ押流されてゐるのではないか。かうした感覚はどこから湧いてくるのだらうか。僕がまた近いうちに、この部屋も立退かねばならぬといふ不安からだらうか。
原民喜の他の作品
TORENDIA
青空の梯子
原民喜
青空の梯子
原民喜 ・ 約1分
TORENDIA
アトモス
原民喜
アトモス
原民喜 ・ 約1分
TORENDIA
淡雪
原民喜
淡雪
原民喜 ・ 約6分
TORENDIA
飯田橋駅
原民喜
飯田橋駅
原民喜 ・ 約3分
TORENDIA
椅子と電車
原民喜
椅子と電車
原民喜 ・ 約3分
TORENDIA
移動
原民喜
移動
原民喜 ・ 約1分
TORENDIA
稲妻
原民喜
稲妻
原民喜 ・ 約3分
TORENDIA
牛を調弄ふ男
原民喜
牛を調弄ふ男
原民喜 ・ 約4分
TORENDIA
絵にそへて
原民喜
絵にそへて
原民喜 ・ 約2分
TORENDIA
縁起に就いて
原民喜
縁起に就いて
原民喜 ・ 約2分
TORENDIA
おふくろ
原民喜
おふくろ
原民喜 ・ 約2分
TORENDIA
コレラ
原民喜
コレラ
原民喜 ・ 約2分
同じジャンルの朗読つきの本
TORENDIA
賭博の負債
田中貢太郎
賭博の負債
田中貢太郎 ・ 約6分
TORENDIA
春の心臓
ウィリアム・バトラー・イエーツ William Butler Yeats
春の心臓
ウィリアム・バトラー・イエーツ William Butler Yeats ・ 約13分
TORENDIA
芸術は短く貧乏
は長し
平野零児
芸術は短く貧乏は長し
平野零児 ・ 約9分
TORENDIA
幸福が遅く来た
なら
生田春月
幸福が遅く来たなら
生田春月 ・ 約2分
TORENDIA
太郎と街
梶井基次郎
太郎と街
梶井基次郎 ・ 約5分
TORENDIA
茶話
薄田泣菫
茶話
薄田泣菫 ・ 約3分
TORENDIA
三月の空の下
小川未明
三月の空の下
小川未明 ・ 約8分
TORENDIA
少年・春
竹久夢二
少年・春
竹久夢二 ・ 約19分