邪宗門
本文約34,300字 ・ 読了時間 約69分
あらすじ(AIが作成しました)
明治三十九年から四十一年にかけて執筆された詩集。象徴詩を標榜し、詩の生命を暗示と音楽的な調律に求める。著者は、自己の感覚と刺激の悦楽を根抵に、理知的な骨格を排した感覚的印象を重視する。収録された詩篇は、神秘や夢幻、退廃的な官能を慕いつつ、内部生活の幽かな振動を言語化しようと試みる。本書は、これら最近の代表作を精査し、自由詩の形式を用いて個性の表白を追求した著作である。
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父上に献ぐ
父上、父上ははじめ望み給はざりしかども、児は遂にその生れたるところにあこがれて、わかき日をかくは歌ひつづけ候ひぬ。もはやもはや咎め給はざるべし。
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邪宗門扉銘
ここ過ぎて曲節の悩みのむれに、
ここ過ぎて官能の愉楽のそのに、
ここ過ぎて神経のにがき魔睡に。
[#改ページ]
詩の生命は暗示にして単なる事象の説明には非ず。かの筆にも言語にも言ひ尽し難き情趣の限なき振動のうちに幽かなる心霊の欷歔をたづね、縹渺たる音楽の愉楽に憧がれて自己観想の悲哀に誇る、これわが象徴の本旨に非ずや。されば我らは神秘を尚び、夢幻を歓び、そが腐爛したる頽唐の紅を慕ふ。哀れ、我ら近代邪宗門の徒が夢寝にも忘れ難きは青白き月光のもとに欷歔く大理石の嗟嘆也。暗紅にうち濁りたる埃及の濃霧に苦しめるスフィンクスの瞳也。あるはまた落日のなかに笑へるロマンチツシユの音楽と幼児磔殺の前後に起る心状の悲しき叫也。かの黄臘の腐れたる絶間なき痙攣と、オロンの三の絃を擦る嗅覚と、曇硝子にうち噎ぶウヰスキイの鋭き神経と、人間の脳髄の色したる毒艸の匂深きためいきと、官能の魔睡の中に疲れ歌ふ鶯の哀愁もさることながら、仄かなる角笛の音に逃れ入る緋の天鵞絨の手触の棄て難さよ。
[#改ページ]
昔よりいまに渡り来る黒船縁がつくれば鱶の餌となる。サンタマリヤ。
『長崎ぶり』 [#改丁]
例言