浅草哀歌
本文約950字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
浅草の夜景や公園の蛇小屋、曲馬場に息づく畸形児や曲馬師といった人々の姿を綴る。さらに銘酒屋を覗く男や三味線を弾く下司女、踊る賤民の児など、盛り場の裏側に漂う孤独や哀愁を描き出す。奥山の写真屋の古びた店構えや、そこに残されたものを通して、過ぎ去った日々の寂しさと忘却の痛みという情景を詩的に展開する。
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1
われは思ふ、浅草の青き夜景を、 仲見世の裏に洩るる短夜の葱のむせびを、 公園の便所の瓦斯を、はた、澄めるアルボースの香を。
あはれなる蛇小屋の畸形児を、かつは知れりや、 怪しげの二階より寥しらに顔いだす玉乗の若き女を、 あるはまた曲馬の場に息喘ぎ、うちならぶ馬のつかれを。
新しきペンキに沁みる薄暮の空の青さよ。 また臭き花屋敷の側に腐れつつ暗みゆく溝の青さは 夜もふけて銘酒屋の硝子うち覗くかなしき男のみや知りぬらん。
われは思ふ、かかる夜景に漂浪へる者のうれひを、 馬肉屋のにうつる広告の幻燈を見て蓄音機きけるやからを、 かくてまた堂のうしろに病める者、尺八の追分ふし。
2
さは思へ、さは思へ、一時ののち……
五時過ぎの夕日黄色く、溝板に、髪床の硝子障子に、 料理屋の軒の点らぬ角燈に、露台の青くさき芥子のにほひに、 照りあかり、羽虫ぞ舞へる、 甘げなる線の粘りのうちもつれやはらかに交へるかれら。
さは思へ、さは思へ、一時ののち……… ここにかの三味線弾きの下司女寒げに坐り、 破むしろ籍きたる上に、 かの暗き魚燈のけぶり頬にうけて、 はらは髪賤民の児ぞ調子をかしきかつぽれを頼りなげにも踊るらむ。
さあれいま羽虫ぞ舞へる。 公園のけふのひと日を立ちつくす男の手より、 かすり絵板はひるがへり、黄なる日に暫しかがやく。
3
わが友よ、わがわかき羅曼底の友よ、 日は暮れて薔薇いろの光薄き弧燈のしめり、 水の面と空気とにしみじみとにほひいでたる。 そを見つつ暮れてゆくよるべなきわれのねたみよ。 君もまた思ひ知りしや、あはれ夜のクラリオネツト、 うち囃す銀のうれひはそことなく楽しけれども、 ――いかにせむ、髪の毛すぢに沁み入りて幽かにも顫ふ香料。
4