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TORENDIA

みちのく

本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

東北の城下町で講演を終えた語り手は、四郎という白痴の少年の写真を写真館で見つける。四郎は各地の店先を無償で掃除し、その純真な姿で町の人々に愛された。かつて呉服店の娘・お蘭は、少年の純粋さに心を寄せ、自分を嫁に貰うという言葉を励みに少年は各地を放浪する。時が流れ、老いたお蘭は今も少年の帰りを待ち続け、語り手は彼女の変わらぬ情愛に触れ、共に海を眺めながら少年を想う。

岡本かの子

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🎧 みちのく / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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桐の花の咲く時分であった。私は東北のSという城下町の表通りから二側目の町並を歩いていた。案内する人は土地の有志三四名と宿屋の番頭であった。一行はいま私が講演した会場の寺院の山門を出て、町の名所となっている大河に臨み城跡の山へ向うところである。その山は青葉に包まれて昼も杜鵑が鳴くという話である。

私はいつも講演のあとで覚える、もっと話し続けたいような、また一役済ましてほっとしたような――緊張の脱け切らぬ気持で人々に混って行った。青く凝って澄んだ東北特有の初夏の空の下に町家は黝んで、不揃いに並んでいた。廂を長く突出した低いがっしりした二階家では窓から座敷に積まれているらしい繭の山の尖が白く覗かれた。

「近在で春蚕のあがったのを置集めているところです」

有志の一人は説明した。どこからかそら豆を茹る青い匂がした。古風な紅白の棒の看板を立てた理髪店がある。妖艶な柳が地上にとどくまで枝垂れている。それから五六軒置いて錆朽ちた洋館作りの写真館が在る。軒にちょっとした装飾をつけた陳列窓が私の足を引きとめた。

緊張の気分もやっと除れた私は、何処の土地へ行っても起るその土地の好みの服装とか美人とかいうのはどういう風のものであろうかと、いつもの好奇心が湧いて来た。

窓の中の写真は、都会風を模した、土地の上流階級の夫人、髯自慢らしい老紳士、あやしい洋装をした芸妓、ぎごちない新婚夫妻の記念写真、手をつないでいる女学生――大体、こういう地方の町の写真館で見るものと大差はないが、切れ目のはっきりした涼しい眼つきだけは撮されている男女に共通のものがあってこの土地の人の風貌を特色づけていた。

だが、私が異様に思ったのは、それらに囲まれて中央に貼ってある少年の大きな写真である。写真それ自体がかなり旧式のものを更に年ふるしたせいもあるだろうが、それにしても少年の大ようで豊かでそして何か異様なものが写真面に表われているのに心がうたれた。

少年は好い絹ものらしい着物を無造作に着て、眼鼻立ちの揃った顔を自然に放置していた。いくら写真を撮し慣れた人でも、これくらい写真機に対して自然に撮させた顔も尠なかろう。

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