TORENDIA
妣が国へ・常世
へ
折口信夫
TORENDIA
妣が国へ・常世へ
本文約7,500字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
古来より日本の先祖たちが抱いてきた、魂のふるさとへの憧憬である「妣が国」と、富と豊かさを求める異郷への観念である「常世」について論じる。遠い異郷に対する情景や、母権社会の反映、あるいは他族との結婚にまつわる悲劇から生じた懐郷心という観点から分析する。さらに、海のかなたにある楽土としての常世の変遷や、異界への信仰がどのように現実の生活や神観念に影響を及ぼしたのか、神話や文献史料に基づきその精神的な系譜を解き明かす。
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一
われ/\の祖たちが、まだ、青雲のふる郷を夢みて居た昔から、此話ははじまる。而も、とんぼう髷を頂に据ゑた祖父・曾祖父の代まで、萌えては朽ち、絶えてはえして、思へば、長い年月を、民族の心の波の畦りに連れて、起伏して来た感情ではある。開化の光りは、わたつみの胸を、一挙にあさましい干潟とした。併し見よ。そこりに揺るゝなごりには、既に業に、波の穂うつ明日の兆しを浮べて居るではないか。われ/\の考へは、竟に我々の考へである。誠に、人やりならぬ我が心である。けれども、見ぬ世の祖々の考へを、今の見方に引き入れて調節すると言ふことは、其が譬ひ、よい事であるにしても、尠くとも真実ではない。幾多の祖先精霊をとまどひさせた明治の御代の伴大納言殿は、見飽きる程見て来た。せめて、心の世界だけでなりと、知らぬ間のとてつもない出世に、苔の下の長夜の熟睡を驚したくないものである。
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