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TORENDIA

矛盾とその害毒

本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

憲法改正草案に掲げられた「主権在民」と、天皇に広範な大権を認める内容との矛盾を論じる。国民の平等や権利を説きながら、世襲の特権を保持させる草案の欺瞞を指摘する。政党が政権獲得のために天皇制護持を掲げる実態が、日本の民主化を阻害し反動政治を再生産する危険性を論考し、真の主権在民の必要性を説く。

宮本百合子

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🎧 矛盾とその害毒 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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新聞に、憲法改正草案が発表されたとき、一番奇妙に感じたことは、「主権在民」と特別カッコの別見出しがつけられていたのに、天皇という項があって、その唯一人の者が九つの大権を与えられていることであった。

短い小説一つにしろ、それが小説であるからには、テーマが一貫している、ということが第一条件である。どんな通俗作家でも、小説の主人公が、突然中途からすりかえられているような分裂した作品は、通用しないことを知っている。

憲法は一国の政治の基準をなす重大なものだのに、草案の起草者たちは、常識からも明白なこの誤り・失敗について、どうして平気なのだろうか。本当に奇怪なことだと思った。

草案第十三条に「すべて国民は法の下に平等であって、人種・信条・性別・社会的身分・又は門地により政治的・経済的・又は社会的関係に於て差別を受けない。云々」とある。

なるほど、これは尤なことだとして読んだ私どもは、翻って、第一、天皇というところに、その特権の身分が世襲であり、人間としての資質如何を条件ともせずに、天皇たる世襲者が、憲法改正から法律・政令・条約の公布以下、政治上の実権の重要な点を押えていることを発見して、おどろきを深めた。

婦人に参政権が与えられ、民主日本の成長のために、と、表面にぎやかに啓蒙がされているけれども、婦人の二千九十一万余票を加えて代議士を選出し、成立した議会を、天皇という身分の人が、その意志で解散させることが出来るのだとしたら、何と選挙そのものが一場の苦々しい猿芝居であるだろう。天皇は衆議院を解散させる大権も与えられているのである。

「すべて国民は」と、堂々発言した人権、或は民権の主張は、どういう論理の間違いからか「人」の規定のなかに入れられていない筈の世襲の特権・門地・特権地位者を、引出して来て、肝心の主権をそっくり人民の手の中から其方へ握らせているのである。

主権在民ということは、最少限に考えて、人民自身が、行政、司法、立法の全権を有すという意味であろうし、議会の権能も、当然人民の内から選ばれた代表――議員によって掌握されなければならないものだろう。

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