M子
本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
蝋燭の消えた静かな部屋で、筆者は親しい友人であるM子のことを思索する。二人は同じ学校に通い、校庭での出会いを経て六年間にわたり友情を育んできた。生活環境が激しく変化しても変わらぬ純粋な心を持ち続けるM子に対し、筆者はその生一本な性質が過酷な境遇で傷つくことを危惧する。不幸な身の上にある友を思い、絆を繋ぎ止めようと苦悩する複雑な心情を描く。
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今消したばっかりの蝋燭の香りが高く室に満ちて居る。
其中に座って一人ぽつねんと私は或る一人の友達の事を思って居る。
其の人の名はM子と云う。
年は私とそう違わない。
大柄な背の高い髪の毛の大変良い人だけれ共色の黒いのが欠点だと皆知ってるものが云って居る。
面長な極く古典的な面立がすっかりその性質を表わして居る。
ほんとうのフトした事から交際しはじめてもう六年ほどにもなる今日、昔よりも尚親しい感情がお互の心に通って居る。
友達などと云うものは大業に紹介されたりなんかしたよりも何時と云う事はなしに親しくなった人同志の方が久しく一致して居られるものだと見える。
M子も私も小さい時に一つの学校に居た。
丁度その学校を出ようとする前の年頃から年よりは早熟て居た私は、仲間とすっかり違った頭になって居たので親しい人も出来ずジイッと一つ事を思いふけったり、小供小供した事をしてさわいで居る仲間の者達の幼げな様子と自分の心を引きくらべて見たりして居た。皆は私を変り者あつかいにしたし、自分も亦、その人達の群からは「変り物」になる事を欲して居た。
何でも秋であった。
私は少しほか人の居ない静かな放課後の校庭の隅に有る丸太落しの上に腰をかけて膝の上に両手を立ててその上に頬をのせて、黄色になって落ちた藤の葉や桜の葉を見つめて居た。
その時私は菊の大模様のついた渋い好いメリンスの袷を着て居たと覚えて居る。
そうして静かな中にじいっと一つ物を見つめて居る事は今になってさえ止まない私の気持の良い胸のときめく様な気のする事である。
私はややしばらくの間、そうやって居た。
胸の中には何とも云い知れぬ喜びと平和な思いが満ち満ちて人が見たら変だろうと思われる微笑を唇に浮べながら地面を見て静かに藤棚の下を歩き廻って居た。
それまで一寸も気のつかないで居た事だけれ共さっきまで私の居たすぐわきに下の級のものが五六人かたまって低い声で何か話して居るのに気がついた。
その中で一番背の高い黒っぽい長い髪を房々とさげた人が気になる様に時々私の方を見ては何か云いたい様な様子をする。
私は直覚的に若しやあの人が「Aさん」と云われて居る人じゃああるまいかと思った。