わかればなしが持ちあがるのも、すべてはゆきなりの事だと、芯から声をあげて、嘉吉もなか子もあはあはあはと笑ひあつたのだが、嘉吉の心の中には、ゆきなりとは云ひぢよう、ゆきなりの事だと云ひきれないものがあつたし、なか子の心のうちには、これからひとり者になつてゆく淋しさを愉しんでゐるふうな、そんな吻つとしたところがあつた。で、ふたりが、いまさらゝしく声をたてゝ笑ひあふのも、これでおしまひだねと云つた風に、嘉吉は久須を引き寄せて、茶を淹れながら、ま、お前は気の軽い女だから俺ほどには思ふまいが、たよりだけは屡々くれるやうにと、二つの湯飲茶碗の糸底を、猫板の上にかつん、かつんと音をさせて並べた。
「まだ、あんたはそんなことを云つてゐるのね。わかれてしまふつて云つたところで、お互ひ、よくなつてゆけば、またかうして一緒になれるンですよ。あんまり理のこまかいこと云ふもンぢやないわよ、悲しくなるぢやないの‥‥」
「ふゝん、悲しくなるか、だが、わかればなしを持ちだしたのはあんたぢやないか」
なか子は黙つてゐた。切角気持ちよく、さつきはあんなにあはあは笑へたのに一寸拍子が逆になると、嘉吉の方が弱り出してしまふので、それが、なか子には余計に歯がゆく思へる。――嘉吉はそこへ寝そべつて、いまさらゝしく四囲を眺めてゐたが、風に吹かれてゐるやうな女の顔を見ると、これが四年も連れ添つてゐた女なのかと思ひ、額に浮んでゐる小皺のやうなものにも、まるで、手擦れのした道具のやうな愛惜を感じた。
「ま、何でもいゝさ、お互ひ躯を丈夫にしてるこつたよ」
「厭ね、まだ、本当に別れてしまつたつて云ふわけぢやなし、そんなこと云ふのおかしいわよ」
「‥‥‥‥」
こんどは嘉吉の方がむつゝりと黙つてしまつて、女の心のなかに何とない余裕のあることを見てとり、これは、案外、本当のわかればなしになつてしまふかも知れないぞと、頭を畳へおとして眼を絞るやうに固くとぢてしまふ。
「一寸、何? 灯火がまぶしいの?」
「‥‥‥‥」