TRENDIA CLASSIC

うき草

林芙美子

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その村には遊んでゐる女が二人ゐた。一人はほんの少しばかり氣がふれてゐるさえといふ女で、三年ほど前、北支那へ行つてゐて、去年の夏、何の前ぶれもなくひよつこり村へかへつてきた。

さえの家は炭燒きをしてゐたのだけれど、父親はもうずつと以前に亡くなり、たつた一人の兄は二度も兵隊にとられて、その二度目の戰場生活はもう三年ばかりになり、何でもビルマの方へ行つてゐるらしいといふ話であつた。――さえの家庭は母親のしもと、兄嫁のすぎと、その子の三郎といふ九つになる息子と七つになるいまといふ娘との四人暮しである。男手がないので炭燒きの仕事ももう四五年も休んでゐて、さえの母たちは少しばかりかひこをかふことと、近所の温泉旅館へ手傳ひにゆくこと位で暮しをたててゐた。この家の持ちものといつては、少しばかりの畑地と、古ぼけた草屋根の家があるきり。そこへ氣の狂つたさえが戻つて來たので、急に家の中は前よりもいつそう暮しにくくなり、家のなかはじめじめとしてぐちが多くなつた。

さえは支那へ行く前は近所の温泉旅館の女中をしてゐたのだけれども、北京で宿屋をしてゐるといふふれこみで、一ヶ月ほど皮膚病をなほしに來てゐた男と出來てしまひ、誰も知らない間に、さえはその男と北京へ行つてしまつた。さえがゐなくなつた當座は、村の誰彼もしばらくさえの風評ばなしをしてゐたのだけれども、いつの間にかさえの話も消えるやうに忘れられてゐたのだ。

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