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TORENDIA

奈良二題

本文約3,000字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

正倉院の拝観を計画した語り手は、入場前に入口で長官夫人に最敬礼を繰り返す官僚夫人たちの奇妙な社交を目の当たりにし、長い待機を余儀なくされる。また東大寺では、光明皇后が聖武天皇の冥福を祈り納めたとされる御歯を収めた銀の小箱を拝観し、そこに詰められた真珠を誤ってこぼすという出来事に遭遇する。本書は、大正から昭和初期の奈良の光景と、そこから抱いた自身の思索を綴る二つの小品を収める随筆である。

野上豐一郎

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🎧 奈良二題 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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社交團

正倉院の曝凉は途中で雨が降りだすと追ひ出されて拜觀劵がそれきり無效になるので天氣を見定めて出かけねばならなかつた。それに、拜觀時間は十時から三時までと限られてあつたので、時間を有效に利用しなければ、私の計畫してゐたものは全部調べられるかどうかわからなかつた。私はその時(大正十五年十一月)は主として北倉と南倉の階上に陳列されてある伎樂面と天平時代の雜樂に關する資料を拜觀したいと思つてゐた。

その日は早く起きて、空のことばかり氣にしてゐたが、まづ大丈夫だらうと見きはめがつくと、かねて用意して置いた懷中電燈と陳列目録と寫生帳をポケットに押し込んで、定刻早めに奈良ホテルを出た。

拜觀者入口と高札を打つた柵の前には、かれこれ十人ばかりの婦人連が、若いのも年とつたのも、肥つたのも瘠せたのも、高いのも低いのも、いづれも白襟紋服の正裝で、列んでゐるやうな、列んでないやうな、大體に於いてその位置を占據しながら、それでゐてその範圍内で斷えず移動してゐるといつた奇妙な集まり方をしてゐた。その前の柵の向側には、いかめしい制服の守衛が四五人突つ立つてゐたけれども、入口を塞いでゐる婦人連を片脇へ寄せようともしなければ、早く入らせようともしなかつた。

もう入場時間となつたので、私は早く入りたいと思つたけれども、婦人連を押し分けて入るのもいけないと思ひ、おとなしく後に立つて待つてゐた。

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