磯馴松
本文約8,300字 ・ 読了時間 約17分
あらすじ(AIが作成しました)
酒に溺れて帰宅した父と、困窮する家族の対立を描く。酒代に困る父に対し、飢える母子は苦しい生活を訴え言い争う。一方、舞子の浜で療養中の美しい奥様は、帰宅を願う見知らぬ子供に金銭を施す。その援助により子供は懸命に働き始め、父も酒を控えると誓う。生活に苦しむ者たちと、心に陰を抱える貴婦人の対比を綴る。
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上
ゲエープツ、ああ酔つたぞ酔つたぞ真実に好い心持に酔つて。かう酔つた時の心持は実に何ともいへないや。嬶が怒らうが、小児が泣かうがサ、ハハハハゲエープツ、ああ好い心持だ。こんな心持は天下様でも恐らく御存じはあんめえ。チヤアンと何もかも御存じなのは、お月様ばかりだ。お月様てえ奴は実に憎くない奴よ、おらがあすこでもつて飲んでる時アどうだ甘いだらうと、いつたやうな顔付でもつて見てござる。いざ帰らうとなると、チヤアンと外へ出て、先に立つて歩行てござらア。いくら酔つても溝へ落つこちないのは、全くお月様のお蔭なんだ。全くだ実に有難てえや。その上かうして家まで送つて下さつたからツて、嬶アに告げ口一ツなさらうぢやなし、送り込んどいてずんずんと西へ西へとお歩行なさる。実にそこは大気なものさネ。たまにやア一ペイお上がんなさいと申し上げたいんだけれど、下界は嫌だと見向きもなさらないところがえれえやハハハハ。いやえれえといへば今晩の嬶アの権幕もまたえれえ事だらうよ。あれでももとはまんざら話せねえ女でもなかつたんだけれど、世帯を持つて小児が出来てからといふものは、そこは女の浅ましさだネ。お前さんはなる口だけに、気が捌けてて嬉しいよと、あいつめ背中を叩きアがつた事を忘れてサ、そんなに飲んぢやいけない、あんなに酔つちやア済まねえと、毎日日にちおれを意地めやアがるんだ。真実に女子といふものは仕方のないものさネ。まんざら素白い素生でもねえ僻に、男の身躰は、酒で持つんだてえ事を、忘れやアがつたから、まるツきり話せねえや。オツト危険ねえ、すんでの事溝へ落つこちるところだつけ。
空を仰ぎて
ハハハハお月様が笑つてごさらア、あんまりおれが夢中になつて愚痴をこぼすもんだから。