TRENDIA CLASSIC

小むすめ

清水紫琴

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氷の塊かとも見ゆる冬の月は、キラキラとした凄しい顔を大空に見せてはをれど、人は皆夜寒に怖ぢてや、各家戸を閉ぢたれば、まだ宵ながら四辺寂として音もなし。さなきだに陰気なる家の、物淋しさはいや増しぬ。二分じんのランプ影暗く、障子の塵、畳の破れも、眼に立ちては見えねど、病みたる父の、肉落ち骨立ちてさながら、現世の人とも思はれぬが、薄き蒲団に包まれて、壁に向ひ臥したる後姿のみは、ありありとして少女の胸を打ちぬ。父は病苦と夜寒とに、寐ても寐つかれずや、コホンコホンと咳く声の、骨身に徹へてセツナそうなるにぞ、そのつど少女は、慌てて父が枕上なる洗ひ洒しの布片を取りて父に与へ、赤きものの交りたる啖を拭はせて、またしよんぼりと坐りいぬ。

少女といふは年の頃十四五、勝れたる容姿といふにはあらねど、優形にて色白く、黒色がちなる眼元愛らしければ、これに美しき服着せたらんには、天晴れ一個の、可憐嬢とも見ゆるならむが、身装のあまりに見苦しきと、水仕の業を執ればにや、手の指赤く膨らみて、硬太りに太りたる二つ、小奇麗なる顔に似合はしからぬやうにて、何となく憐れ気なり。淋しさと心細さは、四辺よりこの少女を襲へばや、少女は何をか思ひ出して、しくしくと泣きゐたり。

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