怪しの館
本文約23,000字 ・ 読了時間 約46分
あらすじ(AIが作成しました)
浅草の料理屋で、美男の浪人・花垣志津馬が配下の浪人たちに屋敷への潜入と誘拐を命じる。一方、とある広大な屋敷では、主の武士が嫉妬に翻弄された過去を嘆き、迫り来る脅威に苦悩していた。そこへ館を訪れた旗二郎は、不可解な襲撃や裏門での密談に遭遇し、葉末という娘や主の琢磨を取り巻く、財産と婚姻を巡る複雑な奸策の渦中に巻き込まれていく。怪異な館を舞台に、欲望と良心の対立を描く。
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一
ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。
四人の武士が話している。
夜である。初夏の宵だ。
「どうでも誘拐す必要がある」
こういったのは三十年輩の、いやらしいほどの美男の武士で、寺侍かとも思われる。俳優といってもよさそうである。衣裳も持ち物も立派である。が、寺侍でも俳優でもなく、どうやら裕福の浪人らしい。
「どうして誘拐いたしましょう?」
こうきいたのは三十二、三の武士で、これは貧しい浪人らしい。左の小指が一本ない。はたしあいにでもまけて切られたのだろう。全体が卑しく物ほしそうである。
「そこはお前達工夫をするさ」
美男の武士はそっけない。
「どうしたものかの?」
と小指のない武士は、一人の武士へ話しかけた。誘拐の相談をしたのである。
「さればさ」
といったのは、二十八、九の、これも貧しげで物ほしそうで、そうして卑しげな浪人であったが、頤にやけどのあとがあった。「姿をやつして立ち廻り、外へ出たところをさらうがよかろう」
「駄目だ、駄目」
と抑えたのは例の美男の武士であった。
「期限があるのだ、誘拐の期限が。それを過ごすと無駄になる。外へ出たところをさらうなどと、悠長なことはしていられない。今夜だ、今夜だ、今夜のうちにさらえ」
「では」
といったのはもう一人の武士で、四十がらみで薄あばたがあり、やはり同じく浪人と見え、衣裳も大小もみすぼらしい。
「ではともかくも姿をやつし、屋敷の門前を徘徊し、様子を計って忍び込み、何んとか玉を引き上げましょう」
「それがよかろう。ぜひに頼む」――美男の武士はうなずいた。「しかし一方潜入の方も、間違いないように手配りをな」
「この方がかえって楽でござる」こういったのはやけどのある武士で、「人殺し商売は慣れておりますからな」
「それにさ」と今度は薄あばたのある武士が、「敵には防備もないそうで」
「うん」といったは美男の武士である。「それに相手そのものが、一向腕ききではないのだからの」
「とはいえ聡明な人物とか、どんな素晴らしい用心を、いたしておるかもしれませんな」
やけどのあとのある武士である。