一
「小豆島紋太夫が捕らえられたそうな」
「いよいよ天運尽きたと見える」
「八幡船の後胤もこれでいよいよ根絶やしか。ちょっと惜しいような気もするな」
「住吉の浜で切られるそうな」
「末代までの語り草じゃ、これは是非とも見に行かずばなるまい」
「あれほど鳴らした海賊の長、さぞ立派な最期をとげようぞ」
摂津国大坂の町では寄るとさわると噂である。
当日になると紋太夫は、跛の馬に乗せられて、市中一円を引き廻されたが、松並木の多い住吉街道をやがて浜まで引かれて来た。
矢来の中へ押し入れられ、首の座へ直ったところで、係りの役人がつと進んだ。
「これ紋太夫、云い遺すことはないか?」作法によって尋ねて見た。
「はい」と云って紋太夫は逞しい髯面をグイと上げたが、「私は、海賊にござります。海で死にとうござります」
「ならぬ」と役人は叱した。
「その方以前何んと申した。海を見ながら死にとうござると、このように申した筈ではないか、本来なれば千日前の刑場で所刑さるべきもの、海外までも名に響いた紋太夫の名を愛でさせられ、特に願いを聞き届けこの住吉の海辺において首打つ事になったというは、一方ならぬ上のご仁慈じゃ。今さら何を申しおるぞ」
「いや」
と紋太夫は微笑を含み、
「海で死にたいと申しましたは、決して海の中へはいり、水に溺れて死にたいという、そういう意味ではござりませぬ」
「うむ、しからばどういう意味じゃな?」
「自由に海が眺められるよう、海に向かった矢来だけお取り払いください[#「ください」は底本では「くだい」]ますよう」
「自由に海を眺めたいというのか」
「はいさようでございます。高手小手に縛された私、矢来をお取り払いくだされたとてとうてい逃げることは出来ませぬ」
「警護の者も沢山いる。逃げようとて逃がしはせぬ。……最後の願いじゃ聞き届けて進ぜる」
「有難い仕合せに存じます」
そこで矢来は取り払われ波平かの浪華の海、住吉の入江が見渡された。頃は極月二十日の午後、暖国のこととて日射し暖かに、白砂青松相映じ、心ゆくばかりの景色である。
太刀取りの武士が白刃を提げ、静かに背後へ寄り添った。
「行くぞ」
と一声掛けて置いて紋太夫の様子を窺った。