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TORENDIA

「味の素」発明の動機

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

十七歳で化学を志した著者は、理論化学を専攻しつつも応用化学への強い関心を抱き、純正化学が工業に貢献できることを証明しようと企図する。折しも昆布から得た着想と、佳味が消化を促進するという見解に基づき、滋養に富む粗食を美味にする調味料の研究を決意する。困窮を脱する願望も背景に持ちつつ、グルタミン酸の抽出に成功して発明に至るまでの経緯と、その後の普及に果たした役割を自身の体験を交えて綴る。

池田菊苗

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🎧 「味の素」発明の動機 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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余が化学を修め始めたるは明治十三年余が十七歳の時にして、主としてロスコー、ファウン=ミルラー、ミューアなどの英書に就きて斯学の初歩を講じたるものなるが、多くもあらぬ小遣銭は尽く薬品器具の購入に費し、家人の迷惑をも顧みず酸類にて衣服や畳に孔を穿ち又硫化水素などを弄びて実験を行ふを唯一の楽とせり。余は当時大阪衛生試験所長兼造幣局技師たりし村橋次郎先生に就きて毎週一回講学上の疑を質し実験上にも指導を蒙りたること少からず。余は其の頃殆ど純正化学と応用化学との別を弁へず化学上の事柄は其の理論的たると応用的たるとに論なく均しき興味を以て之を学びたり。明治十五年大学予備門に入るに及び大学の学風に薫化せられて眼界の頓に開展するを覚え知識的興味は多様となりたるも化学に対する執着は変ることなく寄宿舎に於ても試験管を弄するを止めざりき。進て大学理学部に入るに及んで桜井教授の薫陶を受け理論化学を専攻することとなりたるも応用化学に対する興味は依然として之を持続せり。されば余が大学に於て物理化学を講ずるに当りて相律、反応速度論、化学平衡等に於て実例を挙ぐる場合には諸種の製造法即ち応用化学的工程を説示するに勉めたり。

今日に於てこそ純正化学と其の応用との関係は稍々世人に理解せらるるに至りたれども二十年三十年前に在ては純正化学は数学、星学などと同じく工業とは頗る縁遠きものと一般に認められ居たり。此の事実は純正化学を修めたる大学卒業者の就職と密接の関係を有し当時の卒業者は大学、高等工業学校、高等学校等の教職を除きては殆んど就職の途なき有様を呈せり。唯当時卒業者の数少く而して新設せらるゝ学校の数多かりしを以て現今の如く就職難を訴ふることなかりしと雖も其の前途に於ける活動分野の狭隘なりしことは余が常に憂慮したる所にして余は機会あらば自から応用方面に於て成績を挙げ純正化学者が工業上より見て無用の長物に非ざることを例示せんと窃に企図し居たり。

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