染吉の朱盆
本文約17,000字 ・ 読了時間 約34分
あらすじ(AIが作成しました)
辻斬りの武士が手代を殺害し、持ち物であった朱盆が令嬢・お縫様の屋敷へと渡る不可解な事件が四度繰り返される。お縫様は盆に蒔絵された百人一首の文字から、足りない残り一枚を追い求めるようになり、蒔絵師・染吉がその盆の製作者であることを知る。やがて染吉が衰弱死し、お縫様も病没する中、この一連の出来事を巡る噂や真相が岡引たちの間で語り継がれていく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
ぴかり!
剣光!
ワッという悲鳴!
少し[#「 少し」は底本では「 少し」]間を置いてパチンと鍔音。空には満月、地には霜。
切り仆したのは一人の武士、黒の紋付、着流し姿、黒頭巾で顔を包んでいる。お誂え通りの辻切仕立、懐中手をして反身になり、人なんかァ殺しゃァしませんよ……といったように悠然と下駄の歯音を、カラーンカラン! 立てて向うへ歩いて行く。
切り仆されたのは手代風の男、まだヒクヒクうごめいている。手に包を握っている。
側に屋敷が立っている。立派な屋敷で一軒きりだ。黒板塀、忍び返し、奥に植込が茂っている。周囲は空地、町の灯に遠い。
その塀に添って、カランカラーン、武士はおちついて歩いて行く。
塀について左へ曲がった。
矢張り悠然、矢張り歯音、カラーンカラン! カラーンカラン!
また塀について曲がった途端、
「御用!」
捕手だ!
上がったは十手!
武士、ちっとも驚かなかった。
佇むとポンと胸を打った。
「へ――」
と捕方平伏した。
「半刻あまりそこにいろ」
いいすてて、またもカラーンカラン! 綺麗に歯音を霜夜に立て、そうして肩に満月を載せ、町の方へ行ってしまったのである。
切り仆された手代風の男、まだヒクヒクうごめいている。
と、右手から人の足音、雪駄穿きだな、バタバタと聞える。現れたのは職人風の男、死にぞこないにつまずいた。
「おっ!」というとつくばった。
「しめた!」というと飛び上がった。途端に右手が宙へ躍った。
と、どうしたんだ、あわてたように「しまった!」と叫ぶと引っ返してしまった。どこへ行ったか解らない。
「あッ、取られた、大事な朱盆!」
切られた手代風の男の声! そうしてそれなり、死んでしまった。
数日経った或日のこと、
「ご免下さい」と訪う声。
人殺しのあった側の屋敷、その玄関から聞えて来た。扮装だけはシャンとしているが、顔に無数の痘痕のある可成り醜い男が立っている。
「はい」と現れたのは小間使い「何かご用でございますか?」
「突然で不躾ではございますが、もしやお屋敷の庭の隅に、朱盆が落ちてはおりませんでした?」
「しばらくお待ちを」と這入って行った。