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TORENDIA

戯作者

本文約10,200字 ・ 読了時間 約21分

あらすじ(AIが作成しました)

山東京伝の門を叩いた武士・滝沢馬琴は、その非凡な才能を見出され京伝の食客となる。苦難を乗り越えて独自の作風を確立した馬琴は、滑稽物を執筆する十返舎一九や式亭三馬らと競いながら戯作者として名を馳せていく。やがて剣術修行を通じて精神的な深みを得た馬琴は、長編『八犬伝』の執筆へと邁進し、長きにわたる創作の旅路を歩み始める。本書は、江戸の文壇を彩った二人の戯作者の出会いと、馬琴が物語作家として覚醒するまでの軌跡を描く。

国枝史郎

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初対面

「あの、お客様でございますよ」

女房のお菊が知らせて来た。

「へえ、何人だね? 蔦屋さんかえ?」

京伝はひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵がかけてある。

「見たこともないお侍様で、滝沢様とか仰有いましたよ。是非ともお眼にかかりたいんですって?」

「敵討ちじゃあるまいな。俺は殺される覚えはねえ。もっともこれ迄草双紙の上じゃ随分人も殺したが……」

「弟子入りしたいって云うんですよ」

「へえこの俺へ弟子入りかえ? 敵討ちよりなお悪いや」

「ではそう云って断わりましょうか?」

「と云う訳にも行かないだろう。かまうものか通しっちめえ」

女房が引っ込むと引き違いに一人の武士が入って来た。大髻に黒紋付、年恰好は二十五六、筋肉逞しく大兵肥満、威圧するような風采である。小兵で痩せぎすで蒼白くて商人まる出しの京伝にとっては、どうでも苦手でなければならない。

「手前滝沢清左衛門、不束者にござりまするが何卒今後お見知り置かれ、別してご懇意にあずかりたく……」

「どうも不可え、固くるしいね。私にゃアどうにも太刀打ち出来ねえ。へいへいどうぞお心安くね。お尋ねにあずかりやした山東庵京伝、正に私でごぜえやす。とこうバラケンにゆきやしょう。アッハハハハどうでげすな?」

「これはこれはお手軽のご挨拶、かえって恐縮に存じます」

「どう致しまして、反対だ、恐縮するのは私の方で。……さて、お訪ねのご用の筋は? とこう一つゆきやしょうかな」

「は、その事でござりますが、手前戯作者志願でござって、ついては厚顔のお願いながら、ご門下の列に加わりたく……」

「へえ、そりゃア本当ですかい?」

「手前お上手は申しませぬ」

「それにしちゃア智慧がねえ……」

「え?」と武士は眼を見張る。

「何を、口が辷りやした。それにしても無分別ですね。見れば立派なお侍様、農工商の上に立つ仁だ。何を好んで幇間などに……」

「幇間?」と武士は不思議そうに、

「戯作者は幇間でござりましょうか?」

「人気商売でげすからな。幇間で悪くば先ず芸人。……」

ツルリと京伝は頤を撫でる。自分で云ったその言葉がどうやら自分の気に入ったらしい。

「手前の考えは些違います」

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