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TORENDIA

前記天満焼

本文約47,900字 ・ 読了時間 約96分

あらすじ(AIが作成しました)

大塩中斎は、飢饉に苦しむ民を救うべく、徳川幕府の政治を批判し、平野屋が江戸へ送るという貴重な品を強奪し、兵を挙げる計画を立てる。塾の門弟である宇津木矩之丞は、師の窮民救済の意志を理解しつつも、盗賊として扱われることを危惧し、苦悩する。一方、大阪ではある貴重品を巡る悪党との駆け引きや、不可解な事件が連鎖し、やがて大塩による一揆の計画が静かに進んでいく。

国枝史郎

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ここは大阪天満通の大塩中斎の塾である。

今講義が始まっている。

「王陽明の学説は、陸象山から発している。その象山の学説は、朱子の学から発している。周濂溪、張横渠、程明道、程伊川、これらの学説を集成したものが、すなわち朱子の学である。……朱子の学説を要約すれば、洒掃応待の礼よりはじめ、恭敬いやしくも事をなさず、かつ心を静止して、読書して事物を究め、聖賢の域に入れよとある。……がこれでは廻り遠い。人間そうそう永生きはできぬ、百般の事物を究理せぬうちに、一生の幕を下ろすことになろう。容易に聖賢になることはできぬ。……ここに至ってか陸象山、直覚的究理の説を立てた。陸象山云って曰く、――我心は天の与うるもの、万物の理は心内に在り、心内思考一番すれば、一切の理を認識すべしと――ところが陽明先生であるが、その象山の学説よりおこり、心即理、知行合一、致良知説を立てられた。……」

凜々として説いて行く。中斎この時四十三歳、膏ののった男盛りである。

数十人の門弟は襟を正し、粛然として聞いている。咳一つするものがない。

説き去り説き進む中斎の講義……

「虚霊不昧、理具万事出、心外無理、心外無事」

ちょうどこの辺りまで来た時であった、夕陽が消えて宵となった。

「今日の講義はまずこの辺りで……」

云い捨て中斎が立ち上ったので、門弟一同も学堂を出た。

…………

居間に寛いだ大塩中斎は、小間使の持って来た茶を喫し、何か黙然と考えている。怒気と憂色とが顔にあり、思い詰めたような格好である。

すると、その時襖の陰から、

「宇津木矩之丞にございます。ちょっとお話し致したく」

「ああ宇津木か、入っておいで」

現われたのは若侍で、つつましく膝を進めたが、すぐに小声で話し出した。

「いよいよ平野屋では例の物を、江戸へ送るそうでございます」

「ふうんそうか、いよいよ送るか」

「どう致したものでございましょう?」

「そうさな」と中斎は考え込んだ。怒気とそうして憂色とが、いよいよ色濃くなってきた。

「やっぱりこっちへ取り上げることにしよう」

「はい」と云ったが矩之丞の顔には、不安と危惧とが漂っている。

「後世史家が何と申すやら、この点懸念にござります」

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