鸚鵡蔵代首伝説
本文約12,900字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
信州伊那の川路の郷にある旧家・納谷家には、声を反射する鸚鵡蔵と、供え物を消す飯食い地蔵という不可解な伝承があった。この地を訪れた少年・筧菊弥は、納谷家に嫁いだ姉のお篠と再会するが、姉が木で作られた代首を洗う異様な姿を目の当たりにする。やがて、病床に伏す納谷の当主・雄之進を巡り、蔵と地蔵を舞台に、姉弟が過酷な運命と隠された秘密に翻弄されていく様子を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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仇な女と少年武士
「可愛い坊ちゃんね」
「何を申す無礼な」
「綺麗な前髪ですこと」
「うるさい」
「お幾歳?」
「幾歳でもよい」
「十四、それとも十五かしら」
「うるさいと申すに」
「お寺小姓? それとも歌舞伎の若衆?」
「斬るぞ!」
「ホ、ホ、ホ、斬るぞ、うるさい、無礼、なんて、大変威張るのね、いっそ可愛いいわ。……そうねえ、そんなように厳めしい言葉づかいするところをみると、やっぱりお武士さんには相違ないわね」
女は、二十五六でもあろうか、妖艶であった。水色の半襟の上に浮いている頤など、あの「肉豊」という二重頤で、粘っこいような色気を持っていた。それが石に腰かけ、膝の上で銀張りの煙管を玩具にしながら、時々それを喫い、昼の月が、薄白く浮かんでいる初夏の空へ、紫陽花色の煙を吐き吐き、少年武士をからかっているのであった。
少年武士は、年増女にからかわれても、仕方ないような、少し柔弱な美貌の持主で、ほんとうに、お寺小姓ではないかと思われるような、そんなところを持っていた。口がわけても愛くるしく、少し膨れぼったい唇の左右が締まっていて、両頬に靨が出来ていた。それで、いくら、無礼だの、斬るぞだのと叱咤したところで、靨が深くなるばかりで、少しも恐くないのであった。玩具のような可愛らしい両刀を帯び、柄へ時々手をかけてみせたりするのであるが、やはり恐くないのであった。旅をして来たのであろう、脚絆や袴の裾に、埃だの草の葉だのが着いていた。
「坊ちゃん」と女は云った。
「あそこに見えるお蔵、何だか知っていて?」
眼の下の谷に部落があり、三四十軒の家が立っていた。農業と伐材とを稼業としているらしい、その部落のそれらの家々は、小さくもあれば低くもありして、貧弱しかった。