TRENDIA CLASSIC

鸚鵡蔵代首伝説

国枝史郎

1 / 16

仇な女と少年武士

「可愛い坊ちゃんね」

「何を申す無礼な」

「綺麗な前髪ですこと」

「うるさい」

「お幾歳?」

「幾歳でもよい」

「十四、それとも十五かしら」

「うるさいと申すに」

「お寺小姓? それとも歌舞伎の若衆?」

「斬るぞ!」

「ホ、ホ、ホ、斬るぞ、うるさい、無礼、なんて、大変威張るのね、いっそ可愛いいわ。……そうねえ、そんなように厳めしい言葉づかいするところをみると、やっぱりお武士さんには相違ないわね」

女は、二十五六でもあろうか、妖艶であった。水色の半襟の上に浮いている頤など、あの「肉豊」という二重頤で、粘っこいような色気を持っていた。それが石に腰かけ、膝の上で銀張りの煙管を玩具にしながら、時々それを喫い、昼の月が、薄白く浮かんでいる初夏の空へ、紫陽花色の煙を吐き吐き、少年武士をからかっているのであった。

少年武士は、年増女にからかわれても、仕方ないような、少し柔弱な美貌の持主で、ほんとうに、お寺小姓ではないかと思われるような、そんなところを持っていた。口がわけても愛くるしく、少し膨れぼったい唇の左右が締まっていて、両頬に靨が出来ていた。それで、いくら、無礼だの、斬るぞだのと叱咤したところで、靨が深くなるばかりで、少しも恐くないのであった。玩具のような可愛らしい両刀を帯び、柄へ時々手をかけてみせたりするのであるが、やはり恐くないのであった。旅をして来たのであろう、脚絆や袴の裾に、埃だの草の葉だのが着いていた。

「坊ちゃん」と女は云った。

「あそこに見えるお蔵、何だか知っていて?」

眼の下の谷に部落があり、三四十軒の家が立っていた。農業と伐材とを稼業としているらしい、その部落のそれらの家々は、小さくもあれば低くもありして、貧弱しかった。

国枝史郎の他の作品