TRENDIA CLASSIC

善悪両面鼠小僧

国枝史郎

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乃信姫に見とれた鼠小僧

「曲者!」という女性の声。

しばらくあって入り乱れる足音。

「あっちでござる!」

「いやこっちじゃ!」

宿直の武士の犇き合う声。

文政末年春三月、桜の花の真っ盛り。所は芝二本榎、細川侯の下邸だ。

邸内に大きな松の木がある。その一本の太い枝に一人の小男が隠れていた。豆絞の手拭スットコ冠り、その奥から眼ばかり光らせ高縁の辺りを見詰めている。腕を組み体を縮め足を曲げて胸へ着けた様子、ざっと針鼠と云った塩梅、これが曲者当人である。

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