疣
本文約9,900字 ・ 読了時間 約20分
あらすじ(AIが作成しました)
松吉と杉作の兄弟は、いとこの克巳と絹池で盥に乗り必死の思いで渡り切る経験を通じ、深い親愛の情を育む。後日、松吉らは町へ克巳を訪ねるが、再会した克巳は二人を冷淡に扱い、親しく接しようとしない。期待を裏切られ失意の中で村へ帰る二人は、心に抱えた寂しさを吹き飛ばすように、道中で大砲を撃つ真似をして叫び合いながら、悲しみを乗り越えていく強さを抱いて家路をたどる姿を描く。
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一
兄さんの松吉と、弟の杉作と、年も一つ違ひでしたが、たいへんよく似てゐました。おでこの頭が顔の割に大きく、笑ふと、ひたひに猿のやうにしわがよるところ、走るとき両方の手を開いてしまふところも同じでした。
「二人、ちつとも違はないね。」
とよく人がいひました。さうすると、兄さんの松吉が、口をとがらして、虫くひ歯のかけたところから唾を吹きとばしながら、いふのでした。
「違ふよ。俺には二つも疣があるぞ。杉にや一つもなしだ。」
さういつて、右手の骨ばつた握りこぶしを出して見せました。見ると、なるほど、拇指と人差指の境のところに、一センチくらゐはなれて、小さい疣が二つありました。
この兄弟の家へ、町から、いとこの克巳が遊びに来たのは、去年の夏休みのことでした。克巳は、松吉と同い年の、国民初等科五年生でした。
克巳は五年生でも、体は小さく、四年生の杉作とならんでも、まだ五センチぐらゐ低かつたが、こせこせとよく動きまはる子で、松吉、杉作の家へ来るとぢき、廿日鼠といふあだなをつけられてしまひました。
松吉、杉作の家の裏手には、二抱へもある肉桂の大木がありました。その木の皮を石で叩きつぶすと、いい匂がしたので、大人たちが、ひるねをしてゐるひるさがりなど、三人で、まるで啄木鳥のやうに、木の幹をコツコツと叩いてゐたりしました。
また、あるときは、お祖父さんの耳の中に、毛が生えてゐることを克巳が見つけて、
「わはア、おぢいさんの耳、毛がはえてゐる。」
と、はやしたてたことがありました。松吉、杉作は、もうずつとまへからそんなことは知つてゐました。が、あまり克巳が面白さうにはやしたてるので、いつしよになつて、これも、
「わはい、おぢいさんの耳、毛が生えてゐる。」
と、はやしたてたものでした。するとお祖父さんが、松吉、杉作をにらみつけて、「何だ、きさまたちや。おぢいさんの耳に毛の生えとることくれえ、毎日見てよく知つてけつかるくせに。」と叱りとばしました。そんなこともありました。