あけがた
本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
青黒い室で着物をめぐる友人との不和や自身の不足感に苛立つ「おれ」は、耐えがたい思いから外へ飛び出す。川沿いの家で赤い女と遭遇したのち、激しく流れる川を越えて大きな島へと渡る。洪水が迫るかもしれないという不安と孤独を抱えながら、島で「志木」と名乗る男と対面するまでの心理と風景の変遷を描く。霧が立ちこめるような幻想的な光景と、疎外感の中に揺れ動く少年の内面を捉えた物語である。
💰 この本を応援する(投げ銭)
おれはその時その青黒く淀んだ室の中の堅い灰色の自分の席にそわそわ立ったり座ったりしてゐた。
二人の男がその室の中に居た。一人はたしかに獣医の有本でも一人はさまざまのやつらのもやもやした区分キメラであった。
おれはどこかへ出て行かうと考へてゐるらしかった。飛ぶんだぞ霧の中をきいっとふっとんでやるんだなどと頭の奥で叫んでゐた。ところがその二人がしきりに着物のはなしをした。
おれはひどくむしゃくしゃした。そして卓をガタガタゆすってゐた。
いきなり霧積が入って来た。霧積は変に白くぴかぴかする金襴の羽織を着てゐた。そしてひどく嬉しさうに見えた。今朝は支那版画展覧会があって自分はその幹事になってゐるからそっちへ行くんだと云ってかなり大声で笑った。おれはそれがしゃくにさわった。第一霧積は今日はおれと北の方の野原へ出かける約束だったのだ、それを白っぽい金襴の羽織などを着込んでわけもわからない処へ行ってけらけら笑ったりしやうといふのはあんまり失敬だと おれは考へた。
ところが霧積はどう云ふわけか急におれの着物を笑ひ出した。有本も笑った。区分キメラもつめたくあざ笑った。なんだ着物のことなどか きさまらは男だらう それに本気で着もののことを云ふのか、などとおれはそっと考へて見たがどうも気持が悪かった。それから今度は有本が何かもにやもにや云っておれを慰めるやうにした。
おれにはどういふわけで自分に着物が斯う足りないのかどう考へても判らなくてひどく悲しかった。そこでおれは立ちあがって云〔っ〕た。
「あたりまへさ。おれなんぞまだ着物など三つも四つもためられる訳はないんだ。おれはこれで沢山だ。」有本や霧積は何か眩しく光る絵巻か角帯らしいものをひろげて引っぱってしゃべってゐた。おれはぷいと外へ出た。そしていきなり川ばたの白い四角な家に入った。知らない赤い女が髪もよく削らずに立ってゐた。そしていきなり
「お履物はこちらへまはしましたから。」と云っておれの革スリッパを変な裏口のやうな土間に投げ出した。おれは「ふん」と云ひながらそっちへ行った。それでも気分はよかった。