TRENDIA CLASSIC

あさひの鎧

国枝史郎

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観世縒りの人馬

「飛天夜叉、飛天夜叉!」

「若い女だということだね」

「いやいや男だということだ」

「ナーニ一人の名ではなくて、団体の名だということだ」

「飛天夜叉組ってやつか」

「術を使うっていうじゃアないか」

「摩訶不思議の妖術をね」

「宮方であることには疑がいないな」

「武家方をミシミシやっつけている」

「何がいったい目的なんだろう?」

「大盗賊だということだが」

「馬鹿を云え、勤王の士だよ」

「武家方が宮方を圧迫して、公卿衆や坊様を捕縛しては、拷問をしたり殺したりする。そこで捕縛をされないように、宮方の人々を逃がしてやったり、捕えられた人を取り返したり、いろいろやるということだ」

正中年間から延元年間へかけて飛天夜叉の噂は大変であった。

昭和年間から推算すると、その時代はおよそ六百年前で、後醍醐天皇、大塔宮、竹の園生の御方々は、申すもかしこき極みであり、楠木正成、新田義貞、名和長年というような、南朝方の勤王の士や、北条高時、足利尊氏、これら逆臣の者どもが、歴史の上に華やかに、名を連ねていた時代なのである。

そういう時代のある一日――詳しくいえば正中元年八月××日の真昼時に、土岐小次郎という若い武士が、洛外嵯峨の草の上に、ボンヤリとして坐っていた。

近くの丘には櫨の叢が、のように紅葉し、その裾には野菊や竜胆の花が、秋の陽を浴びて咲いていた。

不意に横から声がかかった。

「小次郎様愉快ですか?」

小次郎は吃驚してそっちを見た。

二十三四の美しい女が、いつの間にどこから来たものか、彼の横に坐っていた。

「愉快でないです」

と小次郎は云った。

「それほどの美貌を持ちながら、愉快でないとは変ですね」

「何を厭なことをおっしゃるんです」

「年はたしか二十歳でしたね」

「どうしてそんなことをご存知なので?」

「妾は何んでも知っているのです」

その女は微妙に笑った。

顔の筋肉は笑っているが、眼だけは決して笑っていないと、そう云ったような笑い方なのである。

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