世の中へ
本文約58,300字 ・ 読了時間 約117分
あらすじ(AIが作成しました)
能登の片田舎に住む十三歳の私は、足の病気や継母との不仲に悩む中、京都で宿屋を営む伯父の誘いを頼りに上京を決意する。父の許しを得て故郷を去った私は、夢見た京都での生活と、そこで直面する厳しい現実や姉の秘密を巡る苦悩の日々を送ることになる。伯父の店で下足番として働く私は、自身の境遇への羞恥と将来への不安を抱きながら、急速に世の中の冷たさと暗さを知っていく。孤独な少年が都会の片隅で成長と葛藤を経験する姿を描く。
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一
私が伯父を頼つて、能登の片田舎から独り瓢然と京都へ行つたのは、今から二十年前、私の十三の時であつた。
私の父は京都生れの者で、京都には二人の兄と一人の姉とが居た。長兄は本家の後を嗣いで万年寺通に仏壇屋をやつて居たし、次兄は四条橋畔に宿屋と薬屋とをやつて居り、姉は六条の本願寺前に宿屋を営んで居た。そして私の姉は、その三年前、十三の年に京都へ行つて、六条の伯母の家におちよぼとなつて居た。私は四条の伯父の許へ行つたのであつた。
四条の伯父は其の年の初夏の頃初めて能登へ来て寄つた。病後の保養かた/″\加賀の山中温泉へ、妾と二人連れでやつて来た序に、自分だけその弟なる私の父の許へ立ち寄つたのであつた。
贅沢で我儘で気むづかしい都育ちの伯父の気質としては、迚も堪へられさうに思はれない汚ない、不自由な、侘びしい漁村ではあつたが、空気がよいのと、新鮮な魚が多いのとの為であつたか、伯父は彼是一月ばかりも滞在して行つた。我が儘の言ひ放題を言ひ、田舎で許す限りの贅沢の仕放題をして――。
その時私は病気で寝て居た。左の膝の関節が痛み、筋が突張つて足が伸びず、歩行も出来ないほどだつた。私は五日か七日隔き位に父に背負はれて二里余り離れた或る村の医者へ通つて居たが、医者は関節炎だとか云つて、ヨヂュムチンキか何かを塗つて呉れたりして居た。
「こんな田舎の医者なんかあかへん。少し快うなつたら京へお来なはい。伯父さん病院入れて癒したるよつて。」
或時斯う言つた伯父の言葉が、不思議に私の頭にこびりついた。伯父が帰つて行つた後にも、私はこの事ばかり思つて楽しんで居た。それは病気をなほして貰ひたい為ばかりではなく、他にも理由があつたのである。