TRENDIA CLASSIC

文芸鑑賞講座

芥川龍之介

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文芸上の作品を鑑賞する為には文芸的素質がなければなりません。文芸的素質のない人は如何なる傑作に親んでも、如何なる良師に従つても、やはり常に鑑賞上の盲人に了る外はないのであります。文芸と美術との相違はありますが、書画骨董を愛する富豪などにかう云ふ例の多いことは誰でも知つてゐる事実でありませう。しかし文芸的素質の有無と云ふことも程度によりけりでありますから、テエブルや椅子の有無のやうに判然ときめる訳には行かないのであります。たとへばわたし自身などはゲエテとかシエクスピイアと云ふ文豪なるものに比べれば、文芸的素質はないと言つてもよろしい。或はもつと下らぬ作家に比べても、ないに等しいかも知れません。けれども野田大塊先生あたりに比べれば、文芸的素質――少くとも俳諧的素質は大いにある。これはあなたがたでも同じことであります。すると文芸に興味のある人はまづ文芸的素質もあるものと己惚れてかかつても差支へありません。少くとも己惚れてかかつた方が幸福であることは確かであります。

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