TRENDIA CLASSIC

憂鬱な家

小熊秀雄

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この一篇をマルキストに捧ぐ

(一)

屋根の上の物音、禿鷹のやうに横着で、陰気な眼をした、あんまり飛び廻つて羽の擦りきれた鴉の群であつた。

こ奴等は、私の家の上で絶えず仲間同志争つた。

私はジット室の中に閉ぢこもつて、この屋根の上を駈け廻る物音を聞いた。不吉な鳥達が、黒いあしうらで跳ね廻つてゐることを知ると、私はたいへん不快な気持にとらはれた。

そして今度は戸口の物音である。

近所に住んでゐるらしい病気の犬こ奴の姿も私には気に喰はない。

何時も腰を、ズルズル曳きづつて歩く、ちよつと見ては、坐つてゐるのか、立つてゐるのか判らない犬であつた、

この犬が戸口に体を一生懸命にこすりつけて、枯れ草のやうな音をたてるのであつた。

逃げてゆくその斑犬の後姿を見ると、まるで赤ん坊のやうにすつかり毛がぬけてしまつてゐる。

頸や肢は哀れに痩てゐるが、腹だけは何つも大きく瓶のやうにふくらんでゐた。

私の郊外の家を、訪れる物音といつたら、まづこの不吉な鴉と、毛のぬけた犬位なものであつた。

海のやうに展けた雪原には何日も何日も吹雪が続いた、殊にこの吹雪のやんだ翌日の静けさは、実に惨忍に静まり返つた。

私の会社に出勤した後の、このぽつちりと雪の中に建つた私の家の中には、どんなに妻は退屈に留守をしてゐるか。

彼女は、室中に縦横に麻繩を張り廻し、凡太郎のむつきを掛け、どんどんと石炭をストーブにくべて、この黒、白、黄、の斑点のあるしめつた旗を乾かしたり、室中をぐるりぐるり子供を背負つて、どうどう廻りをしたり、また流し元でたつた二つよりない飯茶碗を湯の中でコリ/\コリ/\いはせながら何つまでも撫廻してゐることであらう。

凡太郎は部屋の真中にほうりなげられ、円を描いてくる/\廻りながら、手近なものを、なんでも口に頬ばる、畳の間から藁屑を摘み出して頬張つたり、乾からびた飯粒、石炭の小さい塊やら、新聞紙の切つ端や、蝋燭の屑、など片つ端から口にいれた、そして嚥み下されるものは嚥み、嚥みこめないものは吐き出てゐたが、看視人である母親は、鈍感であるので多くの場合知らなかつた。

たまに母親はこれを発見するが落付いたものであつた。

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