なよたけ
本文約79,300字 ・ 読了時間 約159分
あらすじ(AIが作成しました)
平安京を舞台に、石ノ上ノ綾麻呂とその息子文麻呂の別れを描く。文麻呂は万葉集に傾倒し、当時の華美な文学風潮に反抗して本当の日本の心を探求しようとする。やがて都を離れ、不尽の山を望む地で暮らす父子は、自然と調和する中で前世の夢のような思い出を語り合う。本作は、『竹取物語』がいかにして生まれたかを軸に、架空の成立過程と登場人物たちの心情を綴る演劇作品である。
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『竹取物語』はこうして生れた。
世の中のどんなに偉い学者達が、どんなに精密な考証を楯にこの説を一笑に付そうとしても、作者はただもう執拗に主張し続けるだけなのです。
「いえ、竹取物語はこうして生れたのです。そしてその作者は石ノ上ノ文麻呂と云う人です。……」
人物
石ノ上ノ綾麻呂
石ノ上ノ文麻呂
瓜生ノ衛門
清原ノ秀臣
小野ノ連
大伴ノ御行
讃岐ノ造麻呂(竹取ノ翁)
なよたけ
雨彦
こがねまる
蝗麻呂
けらお
胡蝶
みのり
衛門の妻(声のみ)
陰陽師
侍臣
その他平安人の老若男女大勢
合唱隊
(舞台裏にて、低い吟詠調にて『合唱』を詠う。人数は少くとも三十人以上であること)
時
今は昔、例えば平安朝の中葉
第一幕
例えば平安京の東南部。小高い丘の上。丘の向う側には広大な竹林が遠々と連なっているらしい。前面は緩い傾斜になっている。
ある春の夕暮近く――
舞台溶明すると、中央丘の上に、旅姿の石ノ上ノ綾麻呂と、その息子文麻呂。
遠く、近く、寺々の鐘が鳴り始める。
夕暮の色がこよなく美しい。
綾麻呂 さあ、文麻呂。時間だ。 文麻呂 なぜです、お父さん。まだです。 綾麻呂 ――聞いてごらん。(鐘の音)……あれは寺々が夕方の勤行の始まりをしらせる鐘の音だ。御覧。太陽が西に傾いた。黄昏が平安の都大路に立籠め始めた。都を落ちて行くものに、これほど都合のよい時刻はあるまい。このひととき、家々からは夕餉の煙が立上り、人々は都大路から姿をひそめる。その名もまさに平安の、静けき沈黙が街々の上を蔽うている…… 沈黙。あちこちから静かに鐘の音。
人目をはばかる落人にとっては、これこそまたとない機会だ。うっかりしていると、すぐ夜の帳が落ちかかるからな。暗くならない内に、私は国境いを越して、出来ることなら、今夜のうちに滋賀の国のあの湖辺の町までは何とかして辿りついてやろうと思っている。おや! あそこの善仁寺ではもう勤行を始めたらしい。……文麻呂、やっぱり時間だよ。