寡婦
本文約6,200字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
雨が降り続くバヌヴィルの館で、狩猟に訪れた人々が退屈しのぎに怪談話を語り合う。その中の一人の年老いた伯母が、手元にある小さな指輪にまつわる悲しい過去を語り始める。かつて情熱的な一族の血を引き継ぎ、早熟な少年の恋心に翻弄された彼女は、その少年が残したあまりに過酷な記憶を抱え、今日まで独り身を貫いてきたという。一族に伝わる狂気的な愛の行方と、ある女性の半生を描く。
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バヌヴィルの館で狩猟が催されていた、その間のことである。その秋は雨が多くて陰気だった。赧い落葉は、踏む足のしたでカサとの音もたてず、降りつづく陰欝な霖雨にうたれて、轍のなかで朽ちていた。
あらまし葉をふるいつくした森は、浴室のようにじめじめしていた。一たび森へ足を踏みいれて、雨のつぶてに打たれた大木のしたにいると、黴くさい匂いや、降った雨水、びッしょり濡れた草、湿った地面からあがって来る水分がからだを包んでしまう。射手たちはこのひッきりなしに襲ってくる水攻めに絶えず身をかがめ、犬も悲しげに尾を垂れて、肋骨のうえに毛をぺッたりくッつけていた。身体にぴッたり合った年わかい女の猟人たちの羅紗服には雨が透っていた。彼らはこうして、毎日夕がたになると、身心ともに疲れはてて館へ帰って来るのだった。
晩餐をすますと、彼らは、広間に集って、たいして興もなげにロト遊びをしていた。戸外では風が鎧戸に吹きつけて騒々しい音をたて、また古めかしい風見を、独楽のように、からからしていた。そこで一同は、よく本などにあるように、何かかわった話をしてみたらどうだと云いだした。が、ねッから面白い話も出なかった。男の猟人たちは射撃の冒険談や兎を殺した話などをした。女連のほうも頻りに頭を悩ましているのだったが、千一夜物語のシュヘラザアデの想像はとうてい彼女たちの頭には浮んで来なかった。
この遊びももう止めにしようとしていた時である、先刻から、未婚の女でとおして来た年老いた伯母の手を弄ぶともなく弄んでいた一人の若い女が、金色の頭髪でこしらえた小さな指環にふと目をとめた。その時までにも何遍となく見たことはあったのだが、別に気にとめて考えてみたこともなかったのである。
彼女はそこでその指環を静かに指のまわりにしながら、伯母にこう訊いた。
「ねえ伯母さま。何でございますの、この指環は――。子供の髪の毛のようでございますわね」
老嬢は面をあかく染めた。と思うとその顔はさッと蒼ざめた。それから顫えを帯びた声で云うのだった。