五右衛門と新左
本文約10,200字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
天下統一を成し遂げた秀吉は退屈を紛らわせるため、北野の大茶ノ湯を催す。そこで一風変わった茶人として現れた石川五右衛門の才気を見抜き、家来として召し抱える。五右衛門は親友の曽呂利新左衛門と交流しながら、世の中を冷めた目で見つめていた。しかし二人は次第に秀吉と対立し、五右衛門は城を離れて盗賊へと身をやつす。やがて秀吉を狙う壮大な計画が動き出し、五右衛門と新左衛門は再会する。物語は、五右衛門が盗賊として捕らえられるまでを描く。
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一
「大分世の中が静かになったな」
こう秀吉が徳善院へ云った。
「殿下のご威光でございます」
徳善院、ゴマを磨り出した。
「ところが俺は退屈でな」
「こまったものでございます」
「趣向は無いか、変った趣向は?」
「美人でもお集めになられては?」
「少々飽きたよ、実の所」
「それに淀殿がおわすので」顔色を見い見いニタリとした。
「うん淀か、可愛い奴さ」釣り込まれて秀吉もニタリとした。
後庭で鶴の声がした。
色づいた楓の病葉が、泉水の中へ散ったらしい。
素晴らしい上天気の秋日和であった。
「趣向は無いかな、変った趣向は?」
秀吉は駄々をこね出した。
「さあ」
と云ったが徳善院、たいして可い智慧も出ないらしい。
トホンとして坐わり込んでいる。
「ほい」
と秀吉は手を拍った。「あるぞあるぞ珍趣向が!」
「ぜひお聞かせを。なんでございますな?」
「茶ノ湯をやろう、大茶ノ湯を」
「なんだつまらない、そんな事か」心の中では毒吐いたが、どうして表面は大恭悦で、ポンと額まで叩いたものである。
「いかさま近来のご趣向で」
「場所は北野、百座の茶ノ湯」
「さすがは殿下、大がかりのことで」
合槌は打ったが徳善院、腹の中では舌を出した。「へへ腹でも下さないがいい」
「ふれを廻わせ! ふれを廻わせ!」
秀吉は例の性急であった。
「大供が悪戯をやり出したわい。さあ忙しいぞ忙しいぞ!」徳善院は退出した。
×
石田治部少輔、益田右衛門尉、この二人が奉行となった。
「さる程に両人承て人々をえらび、茶ノ湯を心掛けたる方へぞ触れられける。大名小名是を承はり給ひてこは珍敷々々面白きご興行かな、いかにとしてか殿下様へ、お茶をば申べき、望ても叶べき事ならず、かゝる御意こそ有難けれと、右近の馬場の東西南北に、おの/\屋敷割を請取て、数奇屋を立てられける」
こうその頃の文献にあるが、これはとんでもない嘘なのであった。みんなは迷惑をしたのであった。
「さて、和漢の珍器、古今の名匠の墨跡[#「墨蹟」は底本では「黒蹟」]、家々の重宝共此時にあらずばいつを期すべきと、我も/\と底を点じて出されける」
これは何うやら本当らしい。