TRENDIA CLASSIC

肉屋に化けた人鬼

牧逸馬

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「こら、何故お前はそんな所に寝ているんだ」

フリッツ・ハアルマンが斯う声を掛けると、古着を叩き付けたように腰掛けに長くなって眠っていた子供が、むっくり起き上った。独逸サクソニイ州ハノウヴァ市の停車場待合室は、電力の節約で、巨大な土窖のように暗い。ハアルマンは透かすようにして子供の顔を見た。一九一八年十一月二十三日の真夜中だった。霙を混えた氷雨が、煤煙を溶かして、停車場の窓硝子を黒く撫でている。大戦後間もなくのことで、広い構内には、火の気一つないのだが、それでも、拾い集めた襤褸片や紙屑等で身体を囲って、ベンチにぐっすり寝込んでいたフリイデル・ロッテは、突然呶鳴り付けられて喫驚※[#「てへん+発」、118-上-13]ね起き乍ら、ははあ、刑事だな。警察へ引っ張られて保護とか言う五月蝿い目に遭わないように、例ものように此処で謝罪って終おうと、十二歳の少年だったが、浮浪児に特徴の卑屈な、そして、既う職業的になっている笑顔を作って、その、自分を覗き込んでいる男を見上げた。それは、少年の微笑と言うよりも、娼婦が、誰にも教えられずに何時の間にか体得する、手法的な媚びに近かった。それ程、フリイデル・ロッテは、悩艶と言って好い位いの美少年だったので、起したフリッツ・ハアルマンの方が驚いた。

「何うしたんだ。お前、家はないのか」

彼は少年の肩を掴んで荒々しく揺すぶりながら、顔はにやにや笑っていた。この、本篇の主人公、ハノウヴァ市の肉屋フリッツ・ハアルマン―― Fritz Haarmann ――は、まず何よりも先に稀代の男色漢だったのだ。

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