TORENDIA
日本探偵小説界
寸評
国枝史郎
TORENDIA
日本探偵小説界寸評
本文約5,800字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
小酒井不木、江戸川乱歩、松本泰らをはじめとする作家の作品や探偵小説界の現状を論じる。法医学者としての資質と創作の課題、デビュー作の評価、海外文学の影響や翻案の功績、雑誌の状況や後進育成の必要性に言及し、探偵小説が文壇で置かれている立ち位置と、今後の発展に向けた展望を概観する。
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一
二十八歳で博士号を得た、不木小酒井光次氏は、素晴らしい秀才といわざるを得ない。その専門は法医学、犯罪物の研究あるは将に当然というべきであろう。最近同氏は探偵小説の創作方面にも野心を抱き、続々新作を発表している。犯罪物の研究は、今や本邦第一流類と真似手のない点からも、珍重すべきものではあるが、その創作に至っては、遺憾乍ら未成品である。「二人の犯人」「通夜の人々」これらの作を読んでみても、先ず感じられる欠点は、先を急いで余悠がなく、描写から来る詩味に乏しく、謎を解く鍵には間違いはなくとも、その解き方に奇想天外がなく、矢張り学者の余技たることをともすれば思わせることである。但し市井の新聞記事から、巧に材料を選び出して、作の基調にするという、そういう際物的やり方には評者は大いに賛成する。豊富な資力、有り余る語学力、立派な邸宅、美しい夫人、よいものずくめの氏ではあるが、ひとつの病弱という悪いものがあって、氏を不幸に導こうとしている。併し病弱であればこそ、そうやって筆も執られるので、そうでなかったら勅任教授か何かで、大学あたりの教壇で干涸らびて了うに相違ない。文壇擦の毫も無い、謙遜温雅な態度の中に、一脈鬱々たる覇気があって、人をして容易に狎れしめないのは、長袖者流でないからである。
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