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TORENDIA

幼き頃の想い出

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

京都で古本屋を営む菊安で、曲亭馬琴の読本や葛飾北斎の絵本に親しんだ少女時代の追憶を綴る。母の絵画や文学への趣味を受け継ぎ、手当たり次第に模写を重ねた日々や、当時の廉価な古書との出会いを振り返る。また、後年知ることとなった馬琴と北斎の創作を巡る確執や和解のエピソードを交え、芸術的自我のぶつかり合いが生んだ作品の尊さと、古ぼけた品の中に潜む美への思慕を回想する。

上村松園

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🎧 幼き頃の想い出 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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古ぼけた美

東京と違って、京都は展覧会を観る機会も数も少のうございますが、私は書画や骨董の売立のようなものでも、出来るだけ見逃さないようにして、そうした不足を満たすように心掛けて居ます。そうして、そのような売立なぞを観に参りまして、特に興味を惹かれますのは、評判の呼び物は勿論でございますが、それよりも片隅に放擲されて、参観者の注視から逸して淋しく蹲って居る故も解らぬ品物でございます。そこに私はゆくりなく慎ましい美を発見するのでございます。たとえばその昔女郎の足に絡わって居た下駄だとか、或いは高家の隠居が愛用して居た莨入だとか、そういったトリヴィアルなものに、特殊な床しい美が発見されるのです。そこにも又尊い芸術の光、古典の命が潜んで居ます。適切に申せばそれらは「古ぼけた美」とでもいうべきでございましょう。

菊安のことども

そうしたことにつけても思い出されるのは、私の幼い日のことどもでございます。私がまだ尋常三年生かそこらの頃、私達一家は四条の河原町の近くに住居を持って居りましたが、その河原町の四条下った東側に菊安という古本屋がございました。明治二十年過ぎのことでございますから、その菊安の店に並べられて居る古本類には徳川時代の版刻物、絵本や読本の類が数多く占めて居ました。

そうした版刻物の中には、曲亭馬琴の小説類が殊に多うございました。たとえば水滸伝だとか、八犬伝だとか、弓張月だとか、美少年録だとか、馬琴のものならほとんど総べて揃って居たように記憶します。そうしてその絵には殊に葛飾北斎のものが多く、その他当時の浮世絵師の絵が豊かにまれて居ました。

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