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TORENDIA

真珠塔の秘密

本文約7,600字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

上野の美術工芸品展覧会に出品された真珠塔が、展示中に巧妙な手口で偽物とすり替えられる事件が発生する。東洋真珠商会の主と技師から相談を受けた探偵の橋本敏は、犯人が設置した窓の硝子を割る偽装工作の矛盾や、関係者の動向に注目する。橋本は事件の背後に技師による単独犯の可能性を突き止め、隠された真物のありかを見つけ出すことで、真珠塔をめぐる謎を解き明かしていく。

甲賀三郎

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一

長い陰気な梅雨が漸く明けた頃、そこにはもう酷しい暑さが待ち設けて居て、流石都大路も暫くは人通りの杜絶える真昼の静けさから、豆腐屋のラッパを合図に次第に都の騒がしさに帰る夕暮時、夕立の様な喧しい蝉の声を浴びながら上野の森を越えて、私は久し振りに桜木町の住居に友人の橋本敏を訪ねた。親しい間とて案内も乞わずにすぐ彼の書斎兼応接室の扉を叩いて中へ入ると、机に向って何か考えて居たらしい彼は入口へ首を捻じ向けながら、

「やあ、君か。久し振りだね。まあ掛け給え」

「昼間は暑くてとても出られないからね。上野の森は然し悪くはないね」

「上野と云えば君、今度の展覧会の真珠塔だがね」友は扇風器を私の方へ向けながら、「何か変った事を聞かないかい」

「イヤ。いろいろ評判は聞くが変った事は聞かないね。何か事件でも起ったのかね」

友は黙って数葉の名刺を私に渡した。一枚は警視庁の高田警部の名刺で、「東洋真珠商会主下村豊造氏貴下に御依頼の件あり参上仕るべく何分宜しく願上候」と書いてあり、一枚は東洋真珠商会主下村豊造氏の名刺で、一枚は同製作部主任佐瀬龍之助と書かれて居た。

「この二人が少し前に会いに来たそうだ」友は私の見終るのを俟って云った。「恰度僕が留守だったので後程伺うと云い置いて帰ったそうだよ」

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