真間の手古奈
本文約4,600字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
三河の八ツ橋を訪れた江戸一番の人相見・左衛門は、旧家の娘・お蘭の顔に死相を見出す。二人から同時に求愛され、真間の手児奈の伝説にならって入水し義理を立てようと悩むお蘭に対し、左衛門は川を泳いで海苔を採ってくるよう求婚者に試練を課す助言を行う。結果、二人の若旦那は実行できず、お蘭は思い直して逞しい男と結ばれる。
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一
一人の年老いた人相見が、三河の国の碧海郡の、八ツ橋のあたりに立っている古風な家を訪れました。
それは初夏のことでありまして、河の両岸には名に高い、燕子花の花が咲いていました。
茶など戴こうとこのように思って、人相見はその家を訪れたのでした。
縁につつましく腰をおろして、その左衛門という人相見は、戴いた茶をゆるやかに飲んで、そうして割籠のご飯を食べました。
その家はこのあたりの長者の家と見えて、家のつくりも上品であれば、庭なども手入れが届いていました。
「よい眺めでござりますな」
お世辞ともなくこのようにいって、生垣の向うに眺められる八ツ橋の景色を眺めおりました。
左衛門はその頃の人相見としては、江戸で一番といわれている人で、百発百中のほまれがありました。人相風采もまことに立派で、人の尊敬を引くに足りました。で、山間や僻地へ行っても、多くの男女に尊敬され、いつも丁寧にあつかわれました。
この時も左衛門は名のりませんでしたが、神々しい人相や風采のために、その家――泉谷という旧家でありましたが――その泉谷の家族達によって丁寧な態度であつかわれました。
「真間の継橋へも参ったことであります。矢張りよい景色でござりました。ここにも継橋がございますな」
いかさま継橋が見えていました。
八筋の川が流れて居りまして、一筋ごとに橋がかかっていて、継橋をなしているのでした。
継橋の数が八ツなので、そこで八橋ともいうのでした。
「憐れな伝説がございます」
左衛門の前へ穏かに坐って、左衛門と一緒に茶を喫し、長閑に話していた泉谷の主の、彦右衛門という人物は、こう左衛門にいった後で、その憐れな伝説を、古雅な言葉つきで話しました。