別後
別後
逢ひは しませぬ
見もしま せぬに
わしの この村を
馬に乗つて 通つた
馬も嘶く
わたしも泣いた
逢はれないのに
逢ふ気で来てる。
焼山小唄
五条館の
女郎は
山に雉子啼く
日であつた
被衣かづいて
片岡の
馬に乗られて
まへられた
馬が嘶きや
女郎は
かつぐ被衣に
顔かくれ
雉子が啼いてる
いただきの
山の麓を
越えられた
越えたその夜に
いただきの
山は焼けたが
野は焼けず
芒尾花は
片岡の
馬に喰はれて
芽が萠えた。
おたよ
ゆうべ厨の
水甕に
小首かたむけ
聞きほれた
おたよは背戸の
きりぎりす
月の夜なれば
昼顔の
蔓の葉に啼く
虫の音を
おたよ十六
なんと聞く
をとめの胸を
をどらせし
同じ夢見た
そのあした
逃げて失せたも
きりぎりす。
萱の花
誰に見よとて
髪結ふた
西の山には
萱の花
誰に解かそと
帯締めた
東の山にも
萱の花
萱の枯葉に
だまされた
お綱さまはと
懸巣啼く。
旅の鳥
山に春雨
野に茅花
花のかげかは
つばくらめ
去年常陸の
ふるさとの
山に来もした
つばくらめ
雨は降れども
つばくらは
花に寝もせぬ
旅の鳥
野にも山にも
春雨の
雨は糸より
細く降る。
三度笠
馬に乗られた
三度笠
手綱とられた
黄楊の櫛
雁が啼くから
あれ聞けと
城下通れば
馬が言ふ。
夕焼
山のふもとの
遠方は
雲雀囀る
青野原
声は遙に
夕暮の
空はおぼろに
花ぐもり
雲雀囀る
遠方の
山のふもとの
大空は
夕焼小焼の
日が暮れて
桜は真赤に
みンな焼けた。
河原柳
南風吹け
麦の穂に
河原柳の
影法師
最早今年も
沢瀉の
花はちらほら
咲きました
待ちも暮しも
したけれど
河原柳の
影法師
山に父母
蔓葛羅
何故にこの頃
山恋し
藪に茱萸の木
野に茨
茱萸も茨も
忘れたが
藪の小蔭の
頬白は
無事で居たかと
啼きもした
山に二人の
父母は
藪の小蔭の
頬白は
河原柳の
花も見ず
南風吹け
麦の穂に。
鳴子引
淀の河原の
雨催ひ
荻の真白き
穂はそよぐ
いそげ河原の
川舟に
菅の小笠の
鳴子引
河原鶸鳴く
淀川の
小笠かづぎし
花娘
河原蓬の
枯れし葉に
かへる小舟の
艪が響く
唄へ 花妻
花娘
淀の川舟
日が暮れる
菅の小笠に
三日月の
眉をかくせる
鳴子引。
烏
風に吹かれて
そよそよと
山の枯葉は
皆落ちた
木曾に木榧の
実は熟す
かへれ信濃の
旅烏
茶の樹畑の
豆食ひし
鳩は畑の
どこで啼く。
みそさざい
わたしの姉さん
篠藪で
さつさ お背戸の
鷦鷯
誰にも言はずに
ゐてお呉れ
去年の暮にも
篠藪で