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TORENDIA

この子を残して

本文約100,900字 ・ 読了時間 約202分

あらすじ(AIが作成しました)

重い放射線障害を抱える医師の父は、戦火で母を失った幼い二人の子供を残して世を去らねばならない運命を悟る。身動きもままならない病床から、残される子供たちへの愛情と祈り、そして家族のあり方を綴る。戦争孤児たちが平和を希求し、正しく生き抜くことへの切実な願いを込め、如己堂という小さな住まいでの日々の記録と、父としての思索をありのままに描き出す。

永井隆

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永井博士一家(写真右より誠一さん、博士、茅野さん)

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浦上天主堂の廃墟にたつ誠一、茅野兄弟。

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この子を残して

うとうとしていたら、いつの間に遊びから帰ってきたのか、カヤノが冷たいほほを私のほほにくっつけ、しばらくしてから、

「ああ、……お父さんのにおい……」

と言った。

この子を残して――この世をやがて私は去らねばならぬのか!

母のにおいを忘れたゆえ、せめて父のにおいなりとも、と恋しがり、私の眠りを見定めてこっそり近寄るおさな心のいじらしさ。戦の火に母を奪われ、父の命はようやく取り止めたものの、それさえ間もなく失わねばならぬ運命をこの子は知っているのであろうか?

枯木すら倒るるまでは、その幹のうつろに小鳥をやどらせ、雨風をしのがせるという。重くなりゆく病の床に、まったく身動きもままならぬ寝たきりの私であっても、まだ息だけでも通っておれば、この幼子にとっては、寄るべき大木のかげと頼まれているのであろう。けれども、私の体がとうとうこの世から消えた日、この子は墓から帰ってきて、この部屋のどこに座り、誰に向かって、何を訴えるのであろうか?

――私の布団を押し入れから引きずり出し、まだ残っている父のにおいの中に顔をうずめ、まだ生え変わらぬ奥歯をかみしめ、泣きじゃくりながら、いつしか父と母と共に遊ぶ夢のわが家に帰りゆくのであろうか? 夕日がかっと差しこんで、だだっ広くなったその日のこの部屋のひっそりした有様が目に見えるようだ。私のおらなくなった日を思えば、なかなか死にきれないという気にもなる。せめて、この子がモンペつりのボタンをひとりではめることのできるようになるまで……なりとも――。

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