相撲と力学
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あらすじ(AIが作成しました)
力学の観点から相撲を分析し、力士が駆使する四十八手の裏に潜む物理的な原理を論じる。人間の身体を複雑な槓杆の組み合わせと捉え、力士が本能的に行う力の応用や、体格差のある相手を倒す際の運動量の活用法など、物理学的な視点での可能性を指摘する。スポーツの技術を科学的に研究する欧米の事例にも触れつつ、我が国の伝統的な技の数々が持つ力学的な構造を明らかにすることを提唱する随筆である。
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力学というのは物体に作用する力の釣り合いや力の作用によって起る物体の運動を数学的に論ずる六かしい学問である。天地万有が活きて動いて変化している間はこの力学の応用はあらゆる学術技芸に一日も欠く事は出来ぬ。相撲は人間の体力の活技で、一方から見れば霊妙な複雑な器械の戦いである、いずれにしても運用する力はいわゆる器械力で、力の作用する目的物は質量を有する物体だから、やはり相撲も力学の広い縄張の中へ入れても好かろうと思う。人体諸機関の活動を支配する脳神経の作用は別として、人間の五体殊に手足のごときものを力学的に見ればただ複雑な槓杆の組み合せだと云うことも出来る。槓杆の効用は人の知る通り、昔の力学者が「適当な支点を与えてくれれば地球もころがして見せる」と威張ったのは槓杆の効能を極端に云ったものである、だから適当な槓杆と支点を与えれば虻の力で大象も動く、美人の繊手で横綱も釣上げられる。しかし四本柱の中で使用を許されているのは人間が生来持参の槓杆ばかりであるから槓杆に制限があって破天荒の芸は出来ぬが、有りだけの力を出来るだけ有効に使って強敵を倒そうという場合にはつまり槓杆の原理が役に立って来る。されば敵手の身体の何処を捕えて何処に力を加えるが有効かという四十八手の裏表には数学者のひねり出した力学上の原理が籠っている、力士は知らず識らずこの原理を応用しているのだ。更に四十八手を分析したら槓杆の原理のみならずあらゆる力学上の原理の応用が見つかるに相違ない、例えば体量の少ない力士が大きい敵手にぶつかる場合には速度の大小でどれだけの効果があるかという事あるいは敵の運動量を利用して強敵を倒す事など物好きな学者の研究によって明らかになりそうな事である。西洋にはこういう事にも熱心な学者が多く、玉突、テニス、砲丸投等の技術を力学的に研究した例は乏しくない。相撲が特有の国技である以上はどうか我国の学者の研究によって四十八手の力学を明らかにしたいものだ。(明治四十一年五月二十八日『東京朝日新聞』)
完