TRENDIA CLASSIC

熊手と提灯

正岡子規

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本郷の金助町に何がしを訪うての帰り例の如く車をゆるゆると歩ませて切通の坂の上に出た。それは夜の九時頃で、初冬の月が冴え渡って居るから病人には寒く感ぜられる。坂を下りながら向うを見ると遠くの屋根の上に真赤な塊が忽ち現れたのでちょっと驚いた。箒星が三つ四つ一処に出たかと思うような形で怪しげな色であった。今宵は地球と箒星とが衝突すると前からいうて居たその夜であったから箒星とも見えたのであろうが、善く見れば鬼灯提灯が夥しくかたまって高くさしあげられて居るのだ。それが浅草の雷門辺であるかと思うほど遠くに見える。今日は二の酉でしかも晴天であるから、昨年来雨に降られた償いを今日一日に取りかえそうという大景気で、その景気づけに高く吊ってある提灯だと分るとその赤い色が非常に愉快に見えて来た。

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