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TORENDIA

わるい花

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

花屋の前を通りがかった「私」は、薔薇、鈴振花、茉莉花の香りが混ざり合う、胸苦しくも意地悪な香りに引き寄せられて店に入る。店主との対話を通じて、私は暴風の夜の思い出と結びついた、世界に一つだけの「金いろい心の臟」のような花を見つけ出す。愛と恨み、そして死の香りを漂わせるその花を手に入れた私は、深い訳を秘めたまま店を後にし、今後その店の前を避けて通ることを心に誓う。

レミ・ドゥ・グルモン Remy de Gourmont

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🎧 わるい花 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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花屋の前を通り過ぎた。威勢よく反身になつてゐる花もある、しよんぼりと絶え入つてゐる花もある、その花屋の前を通りすがると、妙に氣を搖る意地の惡い香がした、胸苦しいほど不思議の香がした。そこでなかへ入つて行つて尋いてみた。

「おかみさん、どうぞ、その花をお呉んなさい、その一つで三つの花、薔薇と鈴振花と茉莉花の三つの香がする薫の高い意地惡さうな花をさ。その變にほんのりと匂つて來て胸苦しくさせる花をお呉んなさい。

「旦那、もう茉莉花も、薔薇も鈴振花も、すつかり切らしました。何ぞほかに新しい花を召しますのなら、どうか名を仰有つて下さいまし、女の胸の上、戀人の床の上に萎れる花の名はみんな存じてをりますから。

「おかみさん、その一つで三つの花といふのは、新しい花ぢや無いよ。丁度私と同年ぐらゐの花だが、暴風の晩に萎れて了つたかも知れない。

「旦那、私どもでは、萎れた花なんて置きませんです。宅の品はみんな新しい若い、愛の充ちた花で、蘆や薄荷の茂の中で、水に浸つて生きてをります。

「おかみさん、私のいふ花が生きてるか、死んでるか知らないが、何しろ今その意地惡の悲しい香がして來てゐる。噫恨めしいその香はどこからして來るんだらう。

「旦那、多分、お痛はしいお心からでは御座んせんか。暴風の晩にたつた一邊かいだばかりで、一生忘られない花の香もありますから。たしか、今暴風の晩と仰有いましたね。

「おかみさん、何でも花はそこにあるよ。後生だ取つてお呉れ。その妙に氣を搖る意地の惡い香が、通りすがりにしたばかりで、こゝへ入つて來たんだ。私のいふ愛と恨のその花を取つてお呉れ。

「旦那、それでは御自分で、花の中をお探し遊ばせ。その間にちよいと私はこの大きな菖蒲を活けてをります。

「おかみさん、そら、あつた、こゝにあつた、ひとりぽつちで忍冬の中に潰れてゐた。たつた、ひとりぽつちでさ、この花は世界に一つしか無いんだ。それ、暴風と涙と幸の香がしないかね。

「旦那、私には砂地と濱の香しか致しません。それは金雀花ぢやあ御座いませんか、風で忍冬の蔓に絡んだのです。色が褪めて、黄ばんで醜いぢや御座いませんか。

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