TRENDIA CLASSIC

あじゃり

室生犀星

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下野富田の村の菊世という女は、快庵禅師にその時の容子を話して聞かした。

「わたくしが峯のお寺へ詣るのは、ひと年に二度ばかりでございます。春早く雪が消えるころと、秋の終りころとでございます。これはわたくしの家の掟でございまして、その折には四季に食べるお斎糧を小者にかつがせ、腐らぬ漬物などを用意してまいります。峯の阿闍利さまはそのたびにわたくし一家のために護摩壇に坐りながら、一年の災厄を除いてくださるのでございます。峯の御坊寺はごぞんじでしょうが、雨風に荒れてはいますが、一度お詣りをしたあとは爽ぱりとしたよい心持でございます。わたくし一家はごらんのように十二人で暮しておりますが、先祖から御坊を信じているのでございます。御坊の前に池がありますが、先祖はあの池で山芋を掘りながら珍らしい黄金の環を拾ったと伝えております故か、いまだに御謝恩の心づかいでお詣りにあがるのでございます。畑に出ておりましても峯の方へ向うては、尻向けぬように致し息子らもそれを守っておるのでございます。

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