お小姓児太郎
本文約7,000字 ・ 読了時間 約14分
あらすじ(AIが作成しました)
髪結弥吉は、奉公先の稚児小姓児太郎からの執拗な折檻に苦しむ。美しくも残忍な主人の愛憎や情緒不安定な振る舞いに翻弄される中で、弥吉は次第に主人の美しさへ惹かれつつも、屈辱的な日々への未練と嫌悪の狭間で葛藤する。やがて主人の寵愛が薄れ、新たな小姓の存在が明らかになると、二人の関係は冷え切っていく。かつて怯えていた主人の凋落を目の当たりにした弥吉は、冷ややかな感情を抱きながら、ついに屋敷を去る決意をする。
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一
髪結弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児小姓児太郎の朝髪のみだれを撫でつけていた。快よい髪弄りで睡不足の疲れが出て、うとうとと折柄膝がしらを暖める日ざしに誘われながら、い睡りをつづけていた。
頸すじが女のように白くたわわになり、梳き手の揺れをつたえるごとに、弥吉の手ごたえを重くした。弥吉は、飽かずそれを眺めていたが、いかにも疲れ込んでいるらしい児太郎の様子が、それとなくお宿直の、さまざまな取沙汰を思い出させた上、このように正体もなく居睡りをつづけていることが、軽い憎しみをさえ感じ出させた。生白い手をきちんと膝の上にかさね、それすら、ぐったりと、累ね手の重みで感覚もないように見えた。お弓蔵近くの桜が白く晒されはじめ、詰所詰所では、うす睡い碁将棋の音も途絶えていた。
――或る日、ちょうど弥吉が奉公してから一と月ほどあと、児太郎は、自分の部屋へ弥吉を呼んだ。
「無聊だから盃をとらす……。」
そう言われて始めて弥吉は、詰所結いを望んで、児太郎の屋敷へ勤めたこと、鷹狩の、鞍ヶ岳の池で始めて児太郎を見たことなどを話した。そのことも、何時の間にか児太郎にはわかっていたらしかった。行燈のかげで、静かに微笑ってみせ、自分でわざと酒をついでやったりした。そういう情事になれている児太郎は、高ぴしゃに弥吉を眺め下ろしていた。「爪を剪ってくれい。」そう主人の命咐を酔った手つきで、白脛の投げ出されたときは、実際からだが震えるほど、ぞっと嬉しかった。「下手だの。お前のをお出し。」そういう主人を、弥吉は、あわてて手で遮った。
「勿体ない。」
「いや関わぬ。指を出せ。」
児太郎は、自分の白い手の上に、若者の指を乗せ、ポツンと深爪を剪っていたが、みな肉が切られ、あかいものが滲んで出た。弥吉は指頭をしたたる血と、それの痛みを怺えるため顔を歪めていた。