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TORENDIA

懸巣

本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

庭木に吊るした籠で飼育される一羽の懸巣を題材に、鳥が人間の咳や笑い声、ラジオの音楽、近隣の猫や犬、鴉、鶯などの鳴き声を驚くほど巧みに模倣する様子を綴る。教え込まずとも周囲の音を吸収し、その声を自在に使い分ける特性を描く。また、飼い主との呼びかけに応じる懸合いのような日常や、人の顔が見えると途端に無口になるという気まぐれな習性など、鳥の知的な側面と人間との独特な距離感を詳細に記録する随筆である。

室生犀星

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🎧 懸巣 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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何時か懸巣のことを本紙で書いたことがあるが、その後の彼女の真似声は一層種々につかい分けをして、殆ど、かぞえ切れないくらいである。懸巣から見ると人間の声ほど珍しいものがないらしい、大きな人間を毎日籠の中にいて見ていると、とても変化があって面白いらしい。たとえば私のくせである二つ続いた咳をごほんごほんと遣るのを聞いていて、その二つ続きの咳の真似をするのである。咳というものが余程面白いらしいのである。あはははという笑い声を何時の間にか覚えていて、あははは、……と笑う。私と客と話をしていると直ぐ話し声を真似して非常に低い声でぶつぶつ囁いている。囁きながら自分でも苦心するらしく、遣り直し遣り直し遣っている。隣の寺の森に去年から急に鴉がやって来て、一番高い樹の上でああお・ああおと鳴くのを聞いていて、すぐ、それを模倣して了った。喉の嗄れたところまで、うまく、取入れているのである。鶯の声などはそっくり鶯の啼き声である。

今年の冬のあいだ近隣の猫が遣って来て夜中によく鳴いたが、夜中でもちゃんと聞いているのであろう、間もなく美事ににゃあん、にゃあんと鳴くようになった。これは傑作の方で本物の猫の声よりも美しかった。これには全く私も舌を巻いて了った。

「お宅の猫ですか。」

庭木に吊るした籠の中の声を聞いて、客はふしぎそうに問ねるのである。そして本物の猫も不思議そうに籠を見上げるくらいである。

犬の遠吼えはやや不鮮明であるが、これも夜中に聞いているらしく真似ていた。私が巫山戯てかけかけと彼女を呼んでいたが、何時の間にかかけかけと啼くようになった。そのほか、得体の分らぬ鳴き声をするが、一つは娘の弾くピアノの真似らしく一つはラジオの音楽の真似らしい。お昼の時に私はパンと林檎をかじりながらニュースを聞いているそばで、彼女も林檎をふくんでラジオを聞いているが、すこし首をかしげて不思議極まる顔附で聞き入りながら、自分でも耐えられずに何か糶り合うように啼き出すのである。彼女の耳は蓋のない四号活字くらいある穴があいていて、羽毛が冠っているから水を浴させる時の外は見られない。

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