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TORENDIA

幸福

本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

幸福という名の存在が、人の心を試すために貧しい乞食の姿で様々な家を訪ねる。自分を貧乏だと名乗り、追い返す者たちがいる中で、ある家の人だけは分け隔てなく情けをかけておむすびを差し出す。その温かな心に触れた幸福が、誰の元に宿るのかを描く寓話。

島崎藤村

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🎧 幸福 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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「幸福」がいろいろな家へ訪ねて行きました。

誰でも幸福の欲しくない人はありませんから、どこの家を訪ねましても、みんな大喜びで迎えてくれるにちがいありません。けれども、それでは人の心がよく分りません。そこで「幸福」は貧しい貧しい乞食のような服装をしました。誰か聞いたら、自分は「幸福」だと言わずに「貧乏」だと言うつもりでした。そんな貧しい服装をしていても、それでも自分をよく迎えてくれる人がありましたら、その人のところへ幸福を分けて置いて来るつもりでした。

この「幸福」がいろいろな家へ訪ねて行きますと、犬の飼ってある家がありました。その家の前へ行って「幸福」が立ちました。

そこの家の人は「幸福」が来たとは知りませんから、貧しい貧しい乞食のようなものが家の前にいるのを見て、

「お前さんは誰ですか。」

と尋ねました。

「わたしは「貧乏」でございます。」

「ああ、「貧乏」か。「貧乏」は吾家じゃお断りだ。」

とそこの家の人は戸をぴしゃんとしめてしまいました。おまけに、そこの家に飼ってある犬がおそろしい声で追い立てるように鳴きました。

「幸福」は早速ごめんを蒙りまして、今度は鶏の飼ってある家の前へ行って立ちました。

そこの家の人も「幸福」が来たとは知らなかったと見えて、いやなものでも家の前に立ったように顔をしかめて、

「お前さんは誰ですか。」

と尋ねました。

「わたしは「貧乏」でございます。」

「ああ、「貧乏」か、「貧乏」は吾家じゃ沢山だ。」

とそこの家の人は深い溜息をつきました。それから飼ってある鶏に気をつけました。貧しい貧しい乞食のようなものが来て鶏を盗んで行きはしないかと思ったのでしょう。

「コッ、コッ、コッ、コッ。」

とそこの[#「 とそこの」は底本では「とそこの」]家の鶏は用心深い声を出して鳴きました。

「幸福」はまたそこの家でもごめんを蒙りまして、今度は兎の飼ってある家の前へ行って立ちました。

「お前さんは誰ですか。」

「わたしは「貧乏」でございます。」

「ああ、「貧乏」か。」

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