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TORENDIA

死刑

本文約14,500字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

大阪の町奉行荒尾但馬守は、腐敗した世情の中で強い自信を持ち、江戸への帰還を密かに願っていた。ある日、町医者の中田玄竹を相手に酒を酌み交わす中、但馬守は江戸から出府を命じる御沙汰が下ったことを明かす。多くの死刑執行を重ねてきた奉行は、死を前にして、信頼を寄せる玄竹に自身の死骸の手当を託す。

上司小劍

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一

今日も千日前へ首が七つかゝつたさうな。…

昨日は十かゝつた。‥‥

明日は幾つかゝるやろ。‥‥

こんな噂が、市中いツぱいに擴がつて、町々は火の消えたやうに靜かだ。

西町奉行荒尾但馬守は、高い土塀に圍まれた奉行役宅の一室で、腕組みをしながら、にツと笑つた。

『乃公の腕を見い。』

彼れは腕は細かつたが、この中には南蠻鐵の筋金が入つてゐると思ふほどの自信がある。其の細い手の先きに附いてゐる掌が、ぽん/\と鳴つた。

『お召しでございますか。』

矢がすりの袷に、赤の帶の竪矢の字を背中に負うた侍女が、次の間に手を支へて、キッパリと耳に快い江戸言葉で言つた。

『玄竹はまだ來ないか。』

但馬守もキッパリと爽かな調子で問うた。

『まだお見えになりません。』

侍女は手を支えたまゝ、色の淺黒い瓜實顏を擡げて答へた。頬にも襟にも白粉氣はなかつた。

『おそいなう。玄竹が見えたら、直ぐこれへ連れてまゐれ。』

滅多に笑つたこともない但馬守、今日は殊に機嫌のわるい主人が、にツこりと顏を崩したのを、侍女紀は不思議さうに見上げて、『畏まりました。』と、うや/\しく一禮して立ち去らうとした。其の竪矢の字の赤い色が、廣い疊廊下から、黒棧腰高の障子の蔭に消えようとした時、

『あゝ、これ、待て、待て。』と、但馬守は聲をかけた。

『御用でございますか。』と、紀は振り向いて跪いた。但馬守はヂッと紀の顏を見詰めてゐたが、

『其方は江戸に歸りたいか。』

優しい言葉が、やがて一尺もあらうかと思はるゝほどに長く大きな髻を載せた頭のてツぺんから出た。

『はい。』

紀の返辭はきはめて簡單であつた。

『歸りたいか。』

『はい。』

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