午前一時に
本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
午前一時、都会の喧騒と人間関係の煩わしさから解放された男が、自室で孤独に浸る様子を綴る。日中に文士や編集者たちと会い、無意味な社交や自己嫌悪に満ちた振る舞いを繰り返した自身の軽薄さを振り返る。偽りや世間体から生じる罪悪感に苛まれながら、夜の静寂の中で自分自身を取り戻そうとする。神に祈りを捧げ、自己の存在意義を確認するために詩作へと向かおうとする芸術家の苦悩を描く。
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やつと独りになれた! 聞えるものはのろくさい疲れきつた辻馬車の響ばかり。暫くは静寂が得られるのだ、安息とは行かないまでも。暴虐をほしいまゝにした人間の顔もたうたう消え失せた、俺を悩ますものはもう俺自身ばかりだ。
やつと俺にも闇に浸つて疲を休めることが許されたのだ! まづ、扉の鍵を二度まはす。かうして鍵をまはすと、俺の孤独が増すやうだ。現在この世から俺を隔てゝゐる城壁が固くなるやうだ。
怖ろしい生活だ! 怖ろしい都会だ! 今日一日にしたことを数へ上げてみようか。五六人の文士に会つた。その一人は俺に陸路を通つてロシアへ行けるだらうかと訊くんだ(あの男はきつとロシアを島だと思つてゐたにちがひない)。或る新聞の主筆を手ひどくやつつけた。あいつはいひわけをするたんびに一々「何しろこゝは立派な人たちがやつてゐるのですから」と言つたつけ。ほかの新聞はみんなならずものがやつてゐるといふつもりなのだ。二十人ばかりの人にお辞儀をした。そのうち十五人は知らない人だ。同じくらゐの割合で万遍なく握手をした。それも、手袋を買ふときほども身を入れないで。驟雨のあひだ隙つぶしに踊り子のところに上りこんでゐたら、ニユストルの衣裳図案を描いてくれと頼まれた。劇場の支配人のところへ敬意を表しに行つたら、俺に暇を出すと言ひ渡してこんなことを言つた、「Zのところへ行つてみたらいゝでせう。あの男はこゝの作者のなかでも一ばんぐづで、一ばん馬鹿で、一ばん評判がいゝんだから、あすこへ行つたら何とかなるでせう。まあ行つてごらんなさい、そしてまた会ひませう。」俺はしたこともない汚行を自慢して話した(なぜなんだらう?)。それでゐて、喜んでやつたほかのわるさは卑怯にも否定してしまつた。見え坊から出た咎だ、世間への気兼ねから出た罪だ。或る友人に訳もない用事をしてやるのを拒んで、根つから下らない男に推薦状を書いてやつた。ウフツ、それもすつかりおしまひかい?