窓
本文約590字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
開いた窓の外よりも、蝋燭に照らされた閉ざされた窓の奥にある生活や夢、苦悩にこそ深い神秘がある。語り手は屋根の向こうの部屋に住む貧しい老女の姿から彼女の伝説を空想し、他人の生を自らのものとして生きることで自身の存在を確認する。空想が事実かどうかは問わず、内面的な救いや自己認識の助けとなることを重んじる詩的思索を綴る。
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開いた窓の外からのぞき込む人は決して閉ざされた窓を眺める人ほど多くのものを見るものではない。蝋燭の火に照らされた窓にもまして深い、神秘的な、豊かな、陰鬱な、人の眼を奪ふやうなものがまたとあらうか。日光の下で人が見ることの出来るものは、窓ガラスの内側で行はれることに比べれば常に興味の少ないものである。此の黒い、もしくは明るい空の中で、生命が生活し、生命が夢み、生命が悩むのである。
波のやうに起伏した屋根の向ふに一人の女が見える。盛りをすぎて既に皺のよつた、貧しい女である。いつも何かに寄りかゝつてゐて、決して外へ出掛けることがない。私は此の女の顔から、衣物から、挙動から、いや殆んど何からといふことはなく、此の女の身の上話を――といふよりは、むしろ伝説を造り上げてしまつた、そして私は時々涙を流しながら、この話を自分に話して聞かせるのである。
これが若し憐れな年とつた男であつたとしても、私は全く同じ位容易に彼の伝説を造りあげたであらう。
それから私は他人の身になつて生活し、苦しんだことを誇りに思ひながら床に就くのである。
諸君はかう云ふかも知れない、「その話しが事実だといふことは確かゝね?」私の外にある真実がどんなものであらうと何の関りがあるものか――若しそれが、私が生活する助けとなり、私が自分の存在してゐることと、自分が何であるかといふことを感ずる助けとなつたものならば。
完